「嬉しいも哀しいも半分こにしていこう」
僕のこのプロポーズの言葉を、彼女はあとになってから、いまいちだったと言った。その場では感動してプロポーズを受けてくれたけど、「嬉しいも半分にしちゃうの?」とそこがどうにも気になってきたらしい。
「半分に分けるのは、哀しいことだけでよくない?」
確かにそうかもしれない。でも、僕としてはすっきりまとめたくて、何度も練習した言葉だったのだ。
「欲がないっていうか……まあ、そういうとこがいいって分かってるけどさっ」
ダメ出しされているうちにしゅんとしてきた僕に、彼女は慌ててそうつけくわえる。
結婚して暮らしはじめたマンションのバルコニーには、秋晴れの陽光がゆらゆら射しこんでいる。
僕と彼女は、このバルコニーでピクニックごっこをするのがお気にいりだ。夏は暑くて満喫できなかったぶん、涼しくなってきた最近の休日は、いつもバルコニーでゆったりしている。
「まあ……哀しいのは確かに半分持ってもらったよね」
彼女はお腹に手を当てた。昨年、そこに僕と彼女の血を半分ずつ持った子が宿った。
喜んだのも束の間、その子は幻だったみたいに流れてしまった。彼女はあのとき泣き暮らして、僕に何度も謝った。
僕は彼女を抱きしめて、「生まれることはなかったけど、ずっと愛してあげようね」と涙をこらえてささやいた。
「でも、嬉しいのは、やっぱり半分こよりふたりぶんでしょ」
これ一生言われるなあと僕が苦笑していると、彼女はお菓子をつめこんだバスケットケースを何やらごそごそとしたあと、そこから取り出したものを僕に見せた。
母子手帳。
二冊。
「ふたごだって」
僕がびっくりして目を開くと、「やっぱり生まれたくて来ちゃったんだねえ」と彼女はまだ平たいお腹を優しく撫でる。
「これでも、嬉しいは半分しかない?」
悪戯っぽく訊いてきた彼女に、僕は噴き出してしまうように咲い、その肩を抱き寄せると答えた。
「嬉しすぎて、半分でも身に余りそうだよ」
FIN