僕らの恋はうまくいかない-22

首輪で縛って【3】

 もう硬く血管が浮いて、先端はしたたっていた。僕がゆっくりそれを口に含んだとき、頼斗も僕をつかんで根元をしごきながら先端を吸ってきた。ふわりと快感があふれて喘いでしまって、ちゃんとできるかなと思いつつ、僕も頼斗を喉の奥まで飲みこんですすった。
 下半身に甘い痺れがどんどん滲み出して、でもそれに流されるのをこらえて、口の中のものを音を立ててしゃぶる。頼斗より自分のほうが敏感に引き攣って、焦れったいほど腫れあがっているのが分かる。僕はいったん、手での刺激は続けながら口を離した。腰が微妙に動いてせがんでしまっている。
 息が熱っぽくこもって、「だめ」とやっと言うと頼斗が顔を離して僕を見た。僕は身を起こし、頼斗にまたがると、覚えた自分の位置に頼斗の先端を押し当てた。
「……いい?」
「なごみが欲しいなら」
「ん……欲しい」
「いいよ、そのまま」
 僕は腰を緩やかに上下させ、ゆっくりと体内に頼斗を受け入れた。少し痛いのが気持ちいい。圧迫感には嬉しくて涙が出そうになる。僕はすっかり、セックスでは女の子になってしまった。男とばかりこうしていて、もう女の子と交わる自分なんか想像できない。
 頼斗の手が優しく僕の勃起をさすって、僕はかすれた声をこぼしながら、さらに腰を沈めて頼斗を根元まで包みこむ。全部入ると、頼斗の胸の筋肉に手を当てて腰を動かした。
 頼斗も僕の肩を抱き、自然とキスを交わしながら、僕たちはつながった音を立てて腰を振った。頼斗が僕の腰を抱きこんで、さらに奥まで突いてくる。僕は自分のものを自分の手のひらで撫でて、次第に声が抑えられなくなっていく。
「声、出して大丈夫だから」
 何とか目をつぶって唇を噛みしめていると、頼斗がささやいてくる。僕は潤んだ瞳で頼斗を見た。
「出して。聴きたい」
 僕は大きく息を吐いて、そのまま引き攣れた声を出した。頼斗は上体を起こし、僕をシーツに倒し、上と下が入れ替わる。そしてぐっと深くまで突き上げられて、それに合わせて自分をなぐさめる僕は、甘い声を上げて脚を開く。
 そうするともっと頼斗が食いこんで、奥に当たって、締めつけた自分で頼斗のかたちを感じ取って興奮する。頼斗の呼吸も強くなって、僕の声は無意識のうちにリズミカルに吐く息とはずんで、快感の波をありのまま奏でる。
 何でだろう。すごく気持ちいい。僕はいつも、セックスすると気持ちいいほうだけど。この人とのセックスは、下肢がお酒に浸ったみたいに、酔うように甘く痺れる。頭の中が淫靡な靄でいっぱいになって、指先も爪先もほてって、どんどん脚のあいだに神経が集まって、今にも爆ぜそうに溜まっていく。
「っく……いく、出るっ……」
「俺も、っ……やば」
「い、く……あ、もう、……あっ」
 取り留めなくそう言っていると、突然触れられなかったところに指先が届いた気がした。瞬間、ぶちまけるように快感があふれた。いっぱい出していた。無意識にお尻も締まって、それに絞られるように頼斗も射精したのが分かった。頼斗は引き抜いて、同時に、音を立てて精液が僕の中からこぼれる。
 僕は息を切らして、頼斗に抱きついた。頼斗も僕を抱いて、頭から背骨を撫でた。
 頼斗の指が、僕の背中の痣に触れて、その痛みは不快だったからうめいてしまう。「ごめん」と頼斗は言ったあと、僕の頭に頬を当てた。
「これ、客?」
「……親だよ」
「親と暮らしてるのか」
「暮らしてるってほど、家にいないけど。ほかに帰る場所ないから」
「売りって、やっぱ儲からない?」
「僕は高級でも売れっ子でもないし」
「かわいいけどな」
 僕は力なく咲って、頼斗の汗の匂いがする胸に顔を押し当てた。しばらく、その腕の中で小さく丸くなっていた。
 そういえば、いくらもらえるのだろう。お金持ちの人なら少しはずんでくれるだろうか。そんな期待をしていると、「なあ」と頼斗は僕を覗きこんで、前髪を梳いて瞳に瞳をそそいできた。
「ここに住まないか?」
「……はっ?」
 思わず間抜けな問い返しをすると、頼斗は笑って、もう一度繰り返した。
「なごみ、この家に住まないか」
「え……えっ? な、何──何で」
「帰る場所ないんだろ?」
「そう、だけど」
「そんな家帰らなくていいじゃん。帰るなよ」
「……でも」
「ここ、部屋ならいくらでもあまってるし。ただ」
「た……ただ?」
 頼斗は、僕の瞳に映す瞳を悪戯に光らせた。
「俺のペットになって」
「ペット……?」
「寂しいとき、そばにいて」
「……そ、それ、は、つきあう──」
「つきあうんじゃない。つきあうなら、俺は女だし」
「え……でも、僕のこと、今、」
「セックスは男とも女ともするけど、恋愛は女としかしない」
「そ、そう」
「彼女いないときは、やっぱ寂しいし虚しいし。そういうとき、こんなふうに適当にルックスで買うんだけどさ。いちいち物色するのも面倒なんだよな。だから、なごみがペットになってくれたら助かる」
「彼女がいるときは……?」
「そのあいだは、なごみはここで勝手に生活してればいいよ。ほんとのペットなら、世話しなきゃいけないけど、人間だしそんなのは必要ないだろ」
「う、ん」
「どう? けっこう、いい話じゃね?」
 うつむいた。何で、だろう。確かにすごくいい話だ。あの家に帰らなくていい。ここで生活すればいい。ペットなら、きっと金銭の面倒も見てくれるのだろう。
 なのに、どうしてこんなにずきずき胸に棘が刺さるのだろう。白いガーゼに血が広がっていくみたいに。
 だって、あんなに気持ちよく、幸せに、満たされて抱いてくれたのに。ペット……なのか。僕は、何だか、どきどきするのに。あんなにつながったのに、伝わらないのか。
「やっぱ、嫌かな」
 はっと顔を上げた。頼斗は僕の頭を撫でる手を止めて、それに無性に不安になる。
「そうだよな、ペットとか──」
「い、いいよっ」
「え」
「分かった、頼斗のペットになる」
「……いいのか」
「頼斗はそうしてほしいんでしょ?」
「ん、まあ。半分冗談もあったけど」
「あ、……ごめん、本気にしないほうがよければ」
「なってくれるなら大切にするよ。ちゃんとかわいがってやる。面倒見るし、世話もする。抱いてやるし」
「ほんと?」
「うん。なごみとのセックス、すげえよかったし」
 僕は笑みをもらしてしまう。よかった。僕の独りよがりではなかった。頼斗もいいと思ってくれていた。頼斗は僕を抱きしめると、「じゃあ、ここで暮らしていけばいいから」と僕の頭をぽんぽんとした。
「つらい場所には帰んなくていい。売りもおしまいだ。今日から、なごみの帰る場所はこの家な」
 僕はこくんとして、頼斗にしがみついた。ペットでもいい。頼斗のそばにいたい。届かなくても、報われなくても、伝わらなくても、僕はこの人とつながっていたい。家に帰りたくない、売りなんかしたくない、そういうこと以上に、また頼斗に抱かれたい。
 僕たちは朝まで一緒に眠り、着替えがない僕はとりあえず頼斗の服を着て一階に降りた。昨夜も感じた人の気配は、お手伝いさんたちだった。両親はほとんどここに帰宅しないのだそうだ。
「これからこいつもここに暮らすから」と頼斗が言うと、「承知致しました」とお手伝いさんは疑問も浮かべずに僕にお辞儀をした。僕が慌ててお辞儀を返していると、「朝飯」と頼斗はお手伝いさんに言いつけて、長いカウチや大きなテレビがあっても広いリビングを通り、シャンデリアが豪華なダイニングルームに入った。
 僕がきょろきょろしてしまうのを頼斗はおかしそうに見つめて、「やっぱなごみってかわいい」と言った。僕はそわそわしている自分にわずかに頬を染めて首をかしげ、「そうかな」と頼斗に笑った。頼斗は優しく咲ってくれた。
 ペット、なんて言ったけど。思っていたより、ちゃんとかわいがってもらえるのかな。彼女なんて結局作らないかも。僕のことを好きに……
 ……好きに、なってほしいな。
 だって、僕は、もう頼斗が……
 服や生活用品も揃っていった頃、「小遣い」と言われて頼斗からお金をもらった。部屋は当ててもらっていたけど、僕はここに来てから、ほとんど頼斗の部屋で過ごしていた。「お小遣い」と言葉を反芻してそれを受け取ると、「今夜、俺出かけるから」と頼斗はちょっと面倒そうに息をついた。僕がじっと見つめると、頼斗はやっと少し咲って、「親父の会社のパーティに出なきゃいけないんだ」と頭を撫でて、こめかみにキスもしてくれた。
 パーティ。もちろん僕は引き止められないし、ついていくこともできない。残念そうな表情もきっとしてはいけないから、「友達に会いにいってくる」と心配をかけないように僕は言った。頼斗はうなずき、「なごみは楽しんでこい」とお金をつかむ僕の手を包んだ。
 頼斗と一緒にタクシーで駅まで向かい、途中まで一緒だった電車は僕が先に降りた。乗り換えのメモを見ながら、僕はいつも客をあさっていたネオンと喧騒の街に出た。僕を買ったことある人に会ったら嫌だな、と思ったけれど、ずいぶん身綺麗になったせいか気安く声をかけられること自体なかった。
 もちろん僕が向かったのは〈まろん〉で、希音さんに挨拶しなきゃ、と買ってもらった腕時計を見た。二十時。秋くらいから希音さんは夜のシフトにほとんど固定されたと言っていたから、休みでなければきっといる。
 いますように、とドアを開けると、「いらっしゃいませ」と声がかかった。躊躇しそうになりながらも、もう僕はあんなにみすぼらしくないと自分で言い聞かせて、中に踏みこんだ。
「あ……れ、なごみくん?」
 ちょうど入口のそばのテーブルを片づけていたのが、希音さんだった。僕は何か言おうとして、何となく言葉が見つからなくて、とりあえず会釈する。希音さんはお皿を重ねると、「久しぶり」と笑みを作ってくれた。
「お、お久しぶり、です」
「しばらく来なかったね」
「あ、はい。その──住むところが変わったので」
 言いながら僕はポケットから財布を取り出し、「全部返せそうなんですけど」と言うと、希音さんはテーブルを拭きながら「仕事中には受け取れないから」とカウンターにいるオーナーの栗香さんをしめした。
「栗香さんに渡しておいて」
「分かりました。え、えと、何か食べてもいいですか」
「もちろん。少し待ってて、これキッチンに持っていったらテーブル案内するから」
 希音さんは、綺麗になったテーブルからお皿を回収して奥に行ってしまう。僕は所在なく店内を見まわして、お金を渡しておこうと思ったものの、栗香さんはほかのお客さんとしゃべっているので割りこめない。どうしよう、と思っていて、ふとひとつのテーブルから注目が来ているのに気づいた。
 女の人ふたりと男の人ひとりの三人が、四人テーブルで食事をしていて、僕を見ながら何か話している。何かおかしいとこあったかなと急に恥ずかしくなってうつむいて、自分の身なりを気にしていると「なごみくん」と希音さんの声がした。

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