romancier obscur

Koromo Tsukinoha Novels

風見鶏の少女

「風見鶏って、いつも吹いてくる風に立ち向かうようになってるでしょ? それって、すごく強いことだと思うの」
 昔、小学校のそばにある教会の白い屋根にある風見鶏を指さし、里子りこちゃんはそんなことを言っていた。
 いつも一緒に下校するくらい里子ちゃんとは仲良しだった私は、「そうなんだ」と初めての知識に感心し、矢に留まる銀色のにわとりを見つめた。
「私もそんな人になりたいな」
 そうつぶやいた里子ちゃんは、それから数年後、中学生になるとイジメの標的になった。理由なんてない。イジメはいつだって、リーダーの気紛れに合わせた「何となく」だ。
 私は混ざらなかったけど、助けることもしなかった。
 ところがある日、私が里子ちゃんの友達だと知ったリーダーの女の子は、「あんたも里子のことムカつくよね?」とわざわざ里子ちゃんの前で私に訊いてきた。座りこむ里子ちゃんを囲む、イジメグループの視線が一斉に来る。
 私は怖くなって、「リコって、拾われてきた『サトゴ』の間違いだよね」と何とか引き攣らないように笑ってみせた。「マジでそれなんじゃない?」「ウケる!」と幸いみんなおかしそうにげらげら笑ってくれて、ほっとしている私を、教室の床に手をつく里子ちゃんはじっと見つめていた。
 翌朝、教壇で里子ちゃんはリーダーの女の子と向かい合って何やら話をしていた。
 何あれ。立ち向かったってイジメは終わらないのに。バカみたい。
 席に着こうとした私は、引いた椅子が汚れた雑巾で水浸しになっていて、思わず悲鳴をあげた。リーダーの子が笑う。里子ちゃんも笑う。立ち尽くしていると、里子ちゃんがスカートをひるがえして駆け寄ってきて、私の耳元でささやいた。
「知ってる? 風見鶏ってねえ、強い人になびいて、自分の意見がない人のことなんだよ。あんたみたいにね!」

 FIN

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