狂おしく愛する
物静かに冷静ながら、僕はそのとき、“彼” ──強迫観念の絶対的支配下にあり、理性や現実とはかけはなれた世界に飛んでいた。なので、彼女の首を圧する最中、彼女が目覚めたか苦しんだかどうかを、いっさい憶えていない。
彼女にまたがり、孤独への恐怖に浮かされ、ひたすら腿に響く鼓動を聴いていた。それが停止し、しばらく経って思い出して手をほどいた。まだ忘我状態で、強迫観念と一体化し、潜在していた幻想を全身に充満させていた。僕は喪心するまま、無意識に自分の真なる欲望を表出させていった。
まずは、ベッドを降りた。ふとんの上からまたがっていたので、その介入を剥がさなくてはならなかった。深奥に響く鼓動の熱によろめき、重いふとんをつかむ。
静かな夜だった。暖房の吐息だけが流れる中、ふとんや毛布をフローリングに引きずり落とす。まくらも取ってシーツに取り残されても、彼女は起きない。きちんと命を失くしたみたいだ。僕はほっとして、ついで幻想が現実に倒錯しようとしている状況にぞくぞくした。
心の吸気に胸がふくらみ、呼気で鎮めるたび、蕩けそうな陶酔が排出される。これが僕の永年求めていたものなのだ。画像、ポルノ、空想、女の子、マネキン。さんざん迂曲した末に、たどりついた。
僕は死体のそばにいる。自己を欠落し、虚ろに従順で、ぽっかりさた心を自由に解釈させ、支配で僕を癒してくれる、美しい肉体のそばに。彼女は世界を切り離され、僕の世界にやってきた。還させはしない。僕がそう決めているからだ。
彼女は僕の物だ。そう、もうどんな人間でもない──僕はベッドに乗った。
チェックのパジャマを脱がせ、肌を露出させていく。はやる気持ちに指が震え、ボタンがなかなか外せなかった。引きちぎりたくなったが、深呼吸した。
大丈夫だ。邪魔は入らない。時間もたっぷりある。彼女が文句を言うわけでもない。僕が指針なのだ。素直になればいい。拍動を落ち着けると、改めてボタンをはずし、パジャマをそっと左右に開いた。
彼女はスリップドレスを着ていた。その下にブラジャーもつけている。僕はパジャマを床に捨て、下のズボンも引き抜いた。絹の下着だけになった彼女を見下ろすと、重厚なため息がでた。
上体を倒し、彼女の軆にぴったり重なる。鎖骨に頬をすりよせ、胸のふくらみを体重で圧迫した。むきだしの腕をさすると、まだ体温があり、なめらかだった。二の腕の内側など、下着の絹よりきめこまかい。僕はそこに口づけ、鎖骨にも口づけた。
手を腰のくびれに這わせる。肋骨から骨盤まで、じっくり手のひらを下降させると、芸術的な曲線が味わえる。彼女の胸に顔を埋めた。あの匂いがした。僕は軆を起こすと、スリップドレスを脱がせてブラジャーも取り去った。
彼女の乳房は大きすぎず、ほどよくふっくらとして、綺麗なかたちをしている。僕には、かたちが性的魅力だ。いくら大きくても、醜くつぶれるようでは意味がない。その点では、彼女の乳房は僕の理想だった。指先で弾力を愉しみ、丁寧に揉んでその感触に熱中し、乳首を舌でころがす。触れては跳ねる乳房に、じゃれつくみたいに頬擦りをしていると、股間が熱を帯びてきた。
乳房の柔らかさは、僕の女の曲線への執着の頂点かもしれない。女の柔らかさは本当に不思議だ。ちぎれそうにふわふわで、でもつまむとこちらをしなやかにはじく。僕は乳房に頬を埋め、その優しさにうっとりした。
すごく落ち着いた。何だか分からないけど、還れたみたいにほっとする。愛撫も口づけも休めて胸にしがみついて、そのあと腰のくびれを瞳や手でたどり、布切れみたいなショーツを脱がせた。
初めて見たときも思ったけれど、女性器の醜さには多少がっかりした。僕の頭の中では、ここはもっとこざっぱりと左右対象で、清澄に息づいているものだった。でも実際のそれは毒々しく赤黒く、ぬめりを吐き出し、いじるとよだれのような音を立てた。妖怪の口みたいだ。
だが、何度か見ていれば慣れたし、愛着も湧いた。もちろん今はどろどろもなく、ほのかに石鹸の匂いも残っている。ただ織り重なった襞は相変わらず複雑で、かきわけた奥に膣の入口がある。そこをじっくり眺めたあと、すでに腫れあがっている性器を取り出し、彼女をまたいで自慰した。
そして彼女と愛しあっている空想にふけった。彼女の性器をしゃぶったり、抱擁して肌をさすったり、彼女に硬直した性器に触れさせ、愛撫されている気分になったりした。その都度、性器をこすった。彼女の口をこじあけ、そりかえった性器を挿入する。それでフェラチオさせている気になると、すごくよかった。彼女の顔にまたがって、栗色の髪をまさぐりながら腰を揺すり、快感を極限に高めていく。
彼女は物で、僕の自慰のためにいた。僕が彼女にしている行為は、陵辱にほかならなかった。だが、どうしても止められなかった。これこそが、僕の知るたったひとつの愛だった。僕は彼女を慈しんでいるつもりだった。支配して一方的な自己満足をさせてもらうことが、ポルノとして物体可して自慰させてもらうことが、僕の愛情表現だった。
好きだから、餌にする。相手がその愛のかたちをどう思うかなんて、関心外だった。無視ではない。はなから、僕の愛人となるものには心がない。それが僕の愛の条件なのだ。虚ろの心によって、陵辱を陵辱と感じなくなったものを僕は愛する。僕には陵辱とは、傷害でも加虐でもない、真摯な慈愛で、迷子の心をなぐさめる居場所だった。
彼女の頭を抱えこみ、顔に股間を押しつける。僕の愛は、自尊心や感情を持った生者を愛するためのものではない。僕の愛は物体、死者に捧げるための愛だった。死体を愛するために愛がねじまがったのか、ゆがんだ心の矛先が死体だったのか、それは分からないけれど──
呼吸を荒げ、下肢に溜まる快感を爆発させようと股ぐらを顔面にすりつける。そして痛いほどはりつめた性器で深く喉を突いたとき、永遠の幻想の体感の中、ひとり狂おしい絶頂に達した。
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