夢魔が貪るように
僕はいまだに、義妹には何の感情もない。誤解されないため、それは言っておきたい。
確かに、妹は僕と正反対に両親の愛情を受けて育った。だが僕は、彼女に嫉妬も憎悪もない。なぜなら、僕の感情組織はそんなに正常ではないからだ。
不信感にまみれて誰も愛せないように、恵まれた人間を猜忌もできない。それができたら、攻撃というかたちで世界に属せていただろう。当然親愛もなく、僕には、妹や両親は一面識の隣人に等しかった。あたりさわりなく、私生活は見せず、挨拶をする程度で好悪の認識もない。僕には家族は特別な存在ではなく、いわば通りすがりの人たちだった。
よって、僕の行為に妹が妹である必要はまったくなく、彼女に手を出したのは、手近だったからに過ぎない。自分ばかりかわいがられて、僕が放置されて育ったことに、義妹は多少の罪悪感があるようだ。それが僕の白昼夢と噛みあい、歯車は回転しはじめた。きしめきと共に悪夢が紡がれ、道徳が廃棄され、侵害に拘束されながら、僕は妹を腐った幻想に利用した。
しかし、すべてを禁じて欲望をたくわえたあの期間がなかったら、僕は妹にこんなことはしなかったのかもしれない。
拒絶された時点で、自分を受容しない相手と認識し、たぶんすげなくあきらめていた。僕が愛を寄せたいのは心ない物体であり、そう何度も拒絶されたら、相手が意思を持った生者だと認めさせられ、幻想も壊れただろう。そこで自慰に鎮まったか、別の人間を標的にしたかは分からなくても、とにかく、あの抑制がなければこんなことにはならなかった。あのとき僕の欲望は切実な渇望に追いこまれ、結果こんな悲惨な執拗さを宿し、死に物狂いになってしまったのだろう。
僕の心は、孤独で張り裂けそうだった。今すぐなぐさめなくては、断末魔を超越して発狂に表出されそうだった。僕は狂わないために狂った。“彼”にほだされ、泣いて家中を逃げまわる妹を追いかけた。不思議なもので、僕はそのとき彼女に同情していた。その逃げまわるすがたは、まさに僕がこれまで“彼”を振り切ろうとしてきたすがただった。
僕は“彼”に追われながら、“彼”そのものとなって妹を追いまわした。自分が“彼”にすっかり食いつくされたように、何としてでもその小娘を仕留めるつもりだった。助かるにはやらなくてはならず、自分がそうして支配されている体感によって、彼女が僕にのしかかられるのは必定だと感じていた。
逃げられても逃げられても迫り、やっと絶望に食いつぶされて従順になった妹をベッドに連れていけたのは、くしくもあの彼女の一回忌となる冬休みだった。
誰のせいでこんなつらい気分になったと思ってる──
実際にはちっとも思っていない卑しい台詞で、妹をねじふせた。つねづねの罪悪感に光をあてられ、彼女はついに畏縮した。罪を償わなくてはならない気になって、僕の好きにさせるおとなしい受け身になった。例の死に物狂いの欲望が、いちいち殺さずとも彼女を死体に見立てさせた。彼女がどんな苦痛を感じていようと、僕には無だった。僕は妹を生きたまま死体あつかいした。
まあまあふっくらしてきたとはいえ、やはり妹の肉体は未熟だった。胸もつぼみ程度で、腰のくびれも浅く、陰毛が淡い性器くらいが見物だ。貧弱な白い腿をつかんで脚を開かせ、僕はそれを眺める。触ったり舐めたりして、最後にはつらぬいたが、僕の行為は必ずしも挿入が目的ではなかった。見たり触れたりが主で、自慰がもどかしくなったときだけ、狭い膣を使う。
正直、妹の軆は満足に幻想を刺激しなかった。けれど、ほかに手頃な女もいないし、ないよりマシだと、僕はときおり妹を部屋に連れこむようになった。
僕の傷んだ幻想に使用されはじめ、妹に変化があったかは知らない。僕には、妹と道具は別物だった。後者は精神の必需品でも、前者には一瞥の興味もなかった。両親が妹を心配しているときがあったので、陰鬱を帯びるようにはなったのだろう。
僕は告げ口されなければよかった。ばれるのは嫌だった。そうしたら、責めてくる人間と向き合わなくてはならない。僕は少女を強姦することに恥はなくても、自分の顔に光があてられるのは恥ずかしかった。自分のことしか頭になく、この孤独の痛みがやわらぐのなら、他人の苦痛は一考にも値しなかった。
妹を部屋に連れこむと、まずベッドに横たわるように言う。彼女がそうすると、次はおとなしくしているように言う。僕の命令はそれきりだ。いや、最後に誰にも言わないでくれと頼むけど、そのみっつ以外の命令はしない。
寝かせたあとは、僕がその場を無言で支配する。女の子らしい服を脱がし、艶やかな肌を剥き、微妙な乳房やくびれを愛撫し、細い脚を開かせて性器を観察する。抱きしめて体温を感じるときもあった。またがって自慰するときもあった。髪をつかんでフェラチオさせるときもあった。こうしろと命令し、彼女を動かせることはなかった。それが妹にとってかろうじてのさいわいだったかは分からなくても、冷静な客観視では、徹底した死体あつかいで侮辱となるのだろう。
僕は自慰もやめていなくて、その際、妹の軆を基礎に熟した女の肉体を思い描くようになった。その空想が頭に根づくと、実際目の前にした妹にその心象を重ね、恍惚を促進させる興奮剤にした。鎖骨をくっきり浮かせてもろさを強調し、乳房を優しい張りにふくらませ、腰つきも危うく細めて、白い腿の肉づきもおいしそうにする。
僕は幻覚の胸に顔を埋め、うっとりと安堵した。柔らかな弾みに頬擦りして、小さな桃色の乳首を吸う。腰つきは手のひらでさすって味わい、こわばってどろどろしない性器は、唾液で潤して突き上げる。またがって左手で不器用に胸をまさぐりながら、激しく右手を動かしたりもした。
僕は妹の肉体を完全に物体化していた。彼女が生きていて、胸のあたりに心を宿しているなんて思いもよらなかった。偽りの死体をうつわにし、現実と幻想を綯混ぜ、そのカクテルに陶然として、僕はあの久しい絶頂へと解き放たれた。
僕は妹の夢魔だった。僕に犯されているあいだ、妹はおぞましい悪夢を見ていたにちがいない。が、そんなことは、僕だって必死だったので知ったことではなかった。僕の感情地帯は、吹き荒れる“彼”の息吹──強迫観念によって、砂漠と化していた。あるのは物体相手に絶対的支配を行ない、爛れた心を鑑賞と探索で癒すという、ひずんだ欲求だった。僕の心の腐爛は絶望的で、いくらなぐさめても完治なんてあるわけがなかった。
それでも僕は、慰安を求めて死体への愛をむさぼった。獣的な本能だけになって、もう何も分からなかった。それが実は愛という薬でなく、さらに心を腐らせる麻薬だなんて、知る余裕もなかった。僕の愛の定義は覆しようがなく、僕は錯誤した愛に没頭した。
どこで間違ってしまったのかは分からない。僕の病んだ精神はもはやどうしても止められず、罪のない少女をひたすら打ちのめし、死のごとく取り返しのつかない孤独に堕ちていった。
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