【おまけのページ】
※一部ネタバレを含むので注意※
INTERVIEW『あの事件のこと』【XENON】
──某所。
~中略~
──梨羽の詩って、どういうところから来るんだろう?
葉月:さあ。
要:お前が答えるなよ。
葉月:どうですか梨羽さん。
梨羽:(無言)
──あの暴力的な感じが結びつかないんだけど。
要:ライヴ見たら分かるよ。
──何かからインスピレーションをもらったりってあるのかな。最近だと「15歳少女監禁殺人」とか。
要:あれからはないな。
葉月:ないね。
──あっさり言うね?
要:犯人もう自殺しただろ。女のところに行くとか言ってさ。
葉月:愛ですよねー。
要:梨羽は愛については歌わないから。
──四人はあの事件に「愛」を見る?
梨羽:……腐ってる。
要:お。
──「腐ってる」ってどういう意味?
梨羽:腐った匂いがする……
葉月:納豆?
梨羽:温かかったから、腐った。
要:三日前の白飯だな。
──ツッコミいいから(笑)
梨羽:温かかったんだと思う……
──それがあの事件の「愛」?
梨羽:(うなずく)
要:腐ってたもん食わされた意見にしか聞こえねえ。
葉月:よし、紫苑も何か言え。
紫苑:(しばらく無言で)血の通わないものは腐らない。
葉月:え、また腐った飯の話?
紫苑:腐ったってことは、それだけ何か生きてたんだと思う。
──「何か」が「愛」?
紫苑:……たぶん。
──要と葉月の意見は?
要:いや、これ何のインタビューになってんの。
──梨羽は愛について歌わないって言うから。
要:むずかしいこと分かんねえんだけど。
葉月:まあ、腐乱死体を犯してたとか……梨羽の歌詞にありそうではあるけどさ。
要:梨羽がそういう歌詞書いたとしたら、それは侮辱とか憎悪。あの事件から、俺はそういう毒は感じないな。
葉月:毒ないよね。犯人の証言も、俺はわりと信じるよ。
──「少女も自分を愛してた」って証言とか?
葉月:そう。
要:俺はそっちは妄想か真実かは分からねえけどな。犯人の動機は情愛だと思うぜ。
葉月:健康な状態で殺されて、抵抗も何も見つかんなかったんだろー。
要:死体腐ってたせいだろうが。
葉月:だが俺はあえて、相思相愛を信じたい。そっちのがイカれてるから。無理やり殺したなんて……普通じゃないですか!
──要は?
要:ま、あれから俺たちの音が来ることはないな。共感はしない。
葉月:俺も共感はないわー。
──梨羽と紫苑は?
梨羽:(首を横に振る)
紫苑:……理解はできない。
葉月:でもテレビのコメンテーターの「信じられないですね」とは違うんだ。
要:そう。俺たちの方がイカれてると思うね、愛なんか分からない俺たちのほうが。あの事件は、何て言ったらいいんだろうな。
葉月:心中だよね。
要:ああ。愛してなきゃ起こらなかった事件だよ。
~以下割愛~
INTERVIEW『チョコレート』【XENON】
──バレンタインだけど、やっぱりファンからのチョコは多い?
要:あれうざいな。何なんだよ、菓子屋の陰謀だろ。
葉月:チョコよりさー、無料券とか欲しいよね。
要:はあ?換金うぜえだろ。
葉月:いや、生無料とかさ。
要:あー……
──え、ビールの話?
葉月:いいボケだ。
要:つーか、お前っていちいちつけるのか。
──このインタビュー、未成年も読むんだけど。
要:じゃああの二匹の話でも聞いとけ。俺、どうせやるならつけないぜ。
葉月:女って妊娠するじゃん……何あの機能……
要:あ、この絶望的な顔は撮るべき。
──写真、オファーしたけど断ったよね。
要:(舌打ち)
葉月:で、えーと、あれ、コンドームはつけるかって話?
──バレンタインの話だよ。ファンから多そうだけどって。
葉月:ああ、まあもらいますね。でも多いのか?
要:よそ知らねえから分からん。まあ梨羽は多いんじゃね。
葉月:梨羽はチョコ好きバレてから、やたらチョコ増えたよ。
要:あれ何でバレたんだっけか。
葉月:どっかのインタビューで、会話無視してチョコ食ってたとき。
──ああ、それうちのインタビューだね。
要:あんたらかよ。マジ迷惑してんだけど。
葉月:車の中がさー、常にチョコの香りなわけよ。機材の下でカカオ育ってるよ。
──梨羽がもらうバレンタインチョコってどのぐらい?
葉月:手作りってカウントすんの?
──もちろん。
要:手作りは食わねえのに。
──そうなんだ。
要:『私の血を混ぜました』って手紙がついてたことがあってな。食うかよ。梨羽はそのチョコに無言で殺虫剤かけてたぜ。ひたすら。
葉月:あれ何で殺虫剤?ゴキブリ扱い?
要:さあ。嫌悪してたのは確かだな。ん、紫苑何だよ。
紫苑:……蚊。
要・葉月:は?
紫苑:……「蚊が来る」って。
──チョコに混ぜた血で?
紫苑:(うなずく)
葉月:バレンタインの時期に蚊はいねえだろ。
要:梨羽にそのへんの常識はない。
葉月:いや、さすがに梨羽でも蚊が夏の風物詩なのは分かってると思う。
要:どうだか……
──紫苑はチョコもらうの?
紫苑:(首を振る)
葉月:何しれっと嘘ついてんですか、あなた。
要:でも、全部梨羽にやってるよな。
葉月:でもさー、梨羽って洋酒入りも食わないよ。
要:代わりに俺らが食うが。
──最近のバレンタインはチョコとは限らないよね。チョコ以外に何かもらったりする?
要:酒かな。
葉月:酒多いね。
──それは嬉しい?
葉月:ただ酒はありがたい。
要:あと、写真集来るな。
葉月:あー、来る!
──どんな写真集かは訊かないほうがいいよね……
要:未成年を気にするなら。
葉月:それをチョコと思って包装破ったときの梨羽の反応。
要:(爆笑)
──で、結局いくつぐらいバレンタインにプレゼントもらうの?
要:二月のライヴ数による。多けりゃそのぶん楽屋に届くし、少なけりゃハコ以外で俺たちに渡す手段ないから。
葉月:EPILEPSYかぶるとステージにも投げてくるよ、奴ら。あれブーイング時代を思い出すわー。
要:生菓子投げられなくなっただけマシだな。
葉月:まあ開けたら一口サイズになってて、また増殖してんだけどね。ほんといくつか分からん。
──今回も梨羽はしゃべらなかったね。
葉月:今ライヴ前だからなー。
──ライヴの告知聞いて終わろうか。
葉月:要よろしく。
要:紫苑よろしく。
紫苑:(無視して包みをはがしている)
葉月:何やってんだよ。
要:あ、梨羽チョコ食ってんじゃん。
葉月:何この人。一応空気読んでんの?
要:あー、次のライヴは天鈴町で、対バンはファントムリムとかLUCID INTERVALとか。あと誰だっけか。
葉月:サイト見ろ。ガラケーにも優しいインフォだけのサイトだ。
──ありがとう、また話聞かせてね。
INTERVIEW『水空』【RAG BABY】
──まずは、メジャーデビューおめでとう!
(三人揃って):ありがとうございます!
──発表がずいぶん突然だったね?
希咲:監督があたしたちのライヴに来たのが突然だったからね。
──天海監督が直々にライヴに来たの?
希雪:一応、そうだよね。
実和:物販で普通に話しかけられた。
──すぐオファー?
希雪:いや、僕たち初めはあの天海智生監督だとは気づかなくて。
希咲:普通に「俺の映画の主題歌やらね?」とか言われてさ。
希雪:完全にインディーズでの話だと思った(笑)
実和:それでも嬉しかったけど。
希咲:コラボ感覚で「いいですよー」って言ったよね。
希雪:そしたら、渡された台本の出演者にびっくりして。
希咲:松原恵那ちゃんとかAQUARIUMの須藤万琴くんとか。
希雪:希咲、松原恵那かよって舌打ちしてたよね。
希咲:それは言わなくていいんだよ。
──監督が主題歌オファーしたのは、RAG BABY一本だったの?
実和:いや、候補はいくつかあって、ライヴにも実際行ったみたい。
希雪:すでにプロとしてやってるバンドもいたよ。
実和:警備員さんに関係者以外立ち入り禁止ですって止められて、話できなかった人もいるって。
──そのバンドは災難だね(笑)
希咲:ほんと(笑)
希雪:監督の行動が現場すぎて(笑)
希咲:あたしたちはアングラだったから、逆にゆっくり監督と話せたんだよね。
実和:曲とか詞も、出来上がったらすぐコンタクト取れた。
──デビュー曲は映画に合わせて書いたの?
希咲:うん、そう。
実和:俺たちを知ってもらえた切っかけは、デモテープがスタッフが用意した主題歌アーティストの候補にあったからなんだけど。
希咲:監督本人が大量のデモテープ聴いて、こいつかなって絞って、実際ライヴ見て絞って、接触して絞っていったらしいよ。
希雪:そこから残れたのは、やっぱり僕たちがたくさん監督と話せたからかもしれないね。
──嫌な質問かもしれないけど、この映画が同性愛を扱った作品だから、話題のためにゲイカップルの希雪と実和がいるRAG BABYを起用したって言う人もいるよね?
希雪:ほんとに嫌な質問だ(笑)
実和:そこは監督は何も意識してなかった。
希咲:MCで毎回いちいちゲイですよ、つきあってますよって触れないしね。
希雪:うん。台本読ませてもらってから、「僕たちゲイでつきあってますよ」って言ったくらいで。
実和:それで、希雪が書く歌詞に理解は深めてくれた。
希雪:できあがった新曲を聴いた監督は、僕たちに「勇気になりたいか?」って訊いてきたんだ。僕たちはそれに「なりたい」って答えた。それで、僕たちでいこうって決めてくれたんだ。
希咲:監督の性格を大抵の人は知ってるでしょ? あの人が話題性とかって理由で起用するわけないじゃん。
──なるほど。もうひとつ、RAG BABYはふたごのツインヴォーカルっていうのも魅力だよね。
希雪:魅力なの?
実和:俺はおもしろいと思ってる。
希咲:希雪はなかなか折れなかったけどね。実和が誘ってやっと折れた。
──結成は中学時代だっけ。
希咲:そう。でもね、中学の軽音部がほんとにレベル低くて!
希雪:実和のドラムスだけ希咲も認めて、声かけたんだよね。
希咲:でも、実和は希雪と一緒がいいとか。希雪も希雪で、単に実和と一緒にいたいとか。結局バンド始まった理由は不純。
実和:希雪はたぶん音楽しないよって希咲に言われたんだけど。歌詞が好きだったから、自分で歌ってほしかったんだ。
──歌詞は希雪がひとりで書いてるの?
希雪:基本的に僕が書いてる。希咲はどっちかと言うと作曲だよね。
希咲:そうだね。
希雪:僕は音楽やるつもりはなくて。ただ、希咲の曲を聴きながら僕が詞を書くのが、唯一昔から一緒にやってる遊びだったんだ。
希咲:あたしは、おばあちゃんの影響で子供の頃からギターしてたんだよね。
──おばあちゃんも音楽を?
希咲:キャバレーで歌ってたような人だよ。
実和:ふたりのおばあちゃんはほんとかっこいい。
希咲:あたしもそう思う!
希雪:メジャーデビューも一番喜んでくれたよね。
希咲:これからなんだから気い抜くんじゃないよって言われた(笑)
──ほんとにその通り。じゃあ、これからの抱負もこめて最後にひとりずつコメントを。
実和:智生監督と約束したように、俺たちの音が誰かの勇気になればいいなと思う。
希咲:あたしたちが大事にしてきたものが、誰かの大事なものになったらすごく嬉しい。
希雪:パートナーである恋人とふたごの妹とやってるバンド。きっと一生続くから、三人でたくさんの人に何かを届けていきたい。
──『水空』主題歌“Faint Line”、たくさんの人が聴いてくれるように応援してるよ。
語り『BLEACH』【XENON】
──某所ホテルの一室。
要:さっき届いたの、見たか?
葉月:『BLEACHについて語れ』って奴?
要:俺、眠いんだけど。
葉月:送信者は眠くないらしいぞ。
梨羽:(ウォークマンをいじっている)
紫苑:(ギターをいじっている)
要:BLEACHってあれか、漫画の?
葉月:ほかに何かあんの?
要:お前読んだことある?
葉月:悠が電子持ってたからスマホ借りて読んだ。
要:あー。
梨羽:(ウォークマンをさしだしてくる)
要:ん、何だよ。
葉月:NIRVANAのBLEACHのジャケだな。
要:これもBLEACHかよ。
葉月:え、俺らはどっちについて語ればいいんだ。
要:語る気かよ。
葉月:そのへん指定してくれよ。
要:BLEACHってどんな曲入ってた?
葉月:よし、紫苑弾け。
紫苑:(少し考え、Negative Creepを弾く)
葉月:あー。
要:これかー。
葉月:初期だよな?
梨羽:(うなずく)
要:好きなのか?
梨羽:(うなずく)
葉月:ほか、どんな曲?
紫苑:(少し考え、About A Girlを弾く)
葉月:これベストに入ってる奴じゃね。
要:ベスト聴いたことねえな。
葉月:あの頃、蔵出ししまくったのは商業的だった。
要:金になるの見込んだ感じあったよな。
葉月:紫苑、BLEACHからのとどめの一曲。
紫苑:(少し考え、Schoolを弾く)
要:あー!
葉月:ライヴで気持ちよさそう。
要:これコピーしたことあると思う。
葉月:ライヴで?
要:ライヴではやってない。
葉月:そうだっけ。
要:梨羽が洋楽聴くくせに歌えないだろ。
葉月:あー、そうね。
梨羽:(無言)
要:紫苑が弾いたんだよ、確か。
葉月:え、紫苑BLEACH聴いたことあんの?
紫苑:……なかったら弾けない。
葉月:あ、ほんとだわ。
要:紫苑のルーツってあのへんになるのか?
紫苑:グランジは、聴いてた。
葉月:グランジって言葉、久々に聞いた。
要:俺たちの世代がばれる。
葉月:まあ俺としてはね、梨羽がまだ生きてて何よりですよ。
要:俺らはこんな名盤残せないけど、だから梨羽が生きてるんだしな。
紫苑:……梨羽が生きていけるように、ギターを弾いていきたい。
梨羽:(部屋のすみっこに戻っていく)
葉月:おっ、照れてんのかー?
紫苑:……何か続きが来てる。
要:ん?何の?
紫苑:『漫画のBLEACHも語って』って。
葉月:は?それ今来たの?何なの?
要:知らん!寝るぞ俺は。
葉月:何時に来たのそれ、マジで。
紫苑:……三時。
葉月:ないわー。
要:……新作とリンクしてんだろ。
葉月:起きてた。あの魔女っ娘モノか。
要:魔女っ娘。
葉月:そういう世界観のつながり、俺は嫌いじゃないよ。
要:今度悠に会ったら借りて読むわ。とにかく今は寝る。
紫苑:電気、消す?
葉月:あー、お願い。
要:(寝息)
梨羽:(スマホで電子書籍を検索している)
紫苑:……BLEACH読むのか?
梨羽:(うなずく)
──消燈。
◆SPECIAL THANKS◆
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語り『タイムマシン』【XENON】
葉月:来月、五月か。
要:あー、もう十年ぐらいか?
葉月:それぐらいだよな。
要:早いなー。
葉月:ちょっと帰る?
要:梨羽は帰りたいんじゃね。
葉月:どうですか、梨羽さん。
梨羽:(スマホを見つめている)
葉月:やだわー、スマホ依存。
紫苑:……さっき来てた連絡か?
梨羽:(顔をあげてうなずく)
要:何?連絡係は葉月だろ。
紫苑:俺にも来てたけど……(スマホさしだす)
葉月:あーん?
要:『タイムマシンを一度だけ使えるなら、未来に行きたい?過去に戻りたい?』
葉月:何このいかれた質問。
要:また語って答えろって奴か?
紫苑:……たぶん。
葉月:過去とか興味もないわ。
要:じゃあ、お前は行くなら未来か。
葉月:あんま自分の未来には興味ねえけどな。
要:俺も過去も未来もいらねえな……
葉月:紫苑は?
紫苑:過去に行くくらいなら未来がマシ。
葉月:分かるわー。
要:梨羽はどうなんだよ。
梨羽:(眉を寄せる)
葉月:梨羽は過去未来どころか、現在もダメだろ。
要:昔そんな歌詞書いてたな。
葉月:ダメだ、俺らタイムマシンじゃ会話にならねえ。
梨羽:……未来……
要:ん?
梨羽:鈴城くんたち……
葉月:聖樹たちか。
要:あいつらは未来安泰だろ。
葉月:過去は拒否だろうな。
要:自殺行為だしな。
葉月:俺もそう思う。
紫苑:……梨羽は、聖樹たちの未来が見たい?
梨羽:(うなずく)
要:だから、あいつらは安泰だろ。
梨羽:見れる、なら……知りたい。
葉月:よし、王がそう言うなら俺たちは未来に行こう。
要:タイムマシン、マジであるわけじゃねえから。
葉月:訊かれるってことは、モニターかもしれん。
要:……まあいらねえわ、俺は。
紫苑:ないほうがいいと思う。
葉月:あ、時間旅行できるなら、俺は死後見たいかも。
要:忘れ去られてるだろ。
葉月:これまでの音源、どのぐらい残りますかねえ。
要:あー……梨羽は死んだら伝説化しそうだよな。
葉月:梨羽しか伝説になってなさそうだな。
要:うちは梨羽が王様だし、それでよくね。
紫苑:梨羽は自分の死んだあとって考えるのか?
梨羽:死んだら、全部……終わる?
要:終わるんじゃね。
葉月:思念とかは残るのかな。
要:残らねえと思う。
葉月:残ってたら、俺ら憑りつかれてるか。
梨羽:それ……なら、
要:どうせ度胸ないのに、死ぬとか言うなよ。
梨羽:………。
葉月:そういうのは歌詞にしとけ。
要:梨羽は中学から変わんねえよな……
葉月:お前も変わってないけどな。
要:そんなん、お前もだろうが。
紫苑:(部屋に隅に移動した梨羽に付き添う)
葉月:梨羽さんがこの話題で不貞腐れはじめた。
要:もういいだろ、切り上げようぜ。
葉月:まとめ、俺らが行きたいのは未来だった。
要:しかも、自分たちの死後な。
紫苑:俺は……
葉月:ん、何だよ紫苑。
紫苑:梨羽より先に自分が死んでないか知りたい。
要:………。
葉月:………。
梨羽:(ヘッドホンをしている)
葉月:それはー……
要:確かめられるなら……
紫苑:梨羽を置いていきたくない。
要:……だよな。
葉月:ガチでタイムマシン探してみる?
梨羽:(目を閉じて爆音に集中している)
2021.4.20 某所モーテル 深夜
◆Special THANKS◆
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会話SS『はろいん』【ゆづさづ+】
結音:とりっくありーと!
弓弦:お、結音起きたか。
結音:とりっくありーとー!
弓弦:何か知らねえけど、どういたしまして。
結音:違うもん!お菓子!
紗月:そっか、今日はハロウィンだね。
弓弦:そうだっけ?
紗月:お菓子あったかなあ。ちょっと待っててね。
結音:やった!紗月くんには悪戯しないね。
弓弦:じゃあ、俺は悪戯もらってみる。
結音:………。
弓弦:考えてなかったのかよ。
結音:か、考えてたよっ。えっと……えっと。
弓弦:何でもしてみろ。
結音:……今日からあたしは、弓弦と紗月くんのあいだで寝る。
弓弦:地味にマジの嫌がらせじゃねえか。
結音:嫌なの?
弓弦:嫌というか……え、毎日?
結音:毎日!
弓弦:お菓子やるから待ってろ。
結音:嫌なの!?
紗月:ねえ、冷蔵庫の奥にあったんだけど、かぼちゃのプリンなんて買ってたっけ?
結音:プリン!
弓弦:昨日買っといた。
紗月:ふふ、そっか。じゃあ、結音は弓弦にも悪戯できないね。
結音:……できないのかあ。
紗月:でも、たまに三人で寝ようね。
結音:いいの?
紗月:もちろん。弓弦もたまにならいいでしょ。
弓弦:たまにならな。
紗月:僕からはクッキー焼いてあげようか。
結音:クッキーもくれるの?
紗月:うん。材料はあるから。
弓弦:ミキさんとこに行けばもっと何かもらえるかもなー。
紗月:そうだね。お昼ごはんには出かける?
弓弦:結音、行くか?
結音:行く!とりっくありーと!
会話SS『年越し』【鈴城家】
「もうすぐ年が変わるね」
「わ、もうそんな時間?」
「うん。あと五分くらい」
「早いね」
「悠紗はどうしてるかな。メール来ないや」
「大晦日だし、イベントに連れ出されてるかもね」
「そっか。年末イベントってすごそう」
「すごいよ。僕、ちょっと心配してる」
「はは。XENONが一緒だから大丈夫だよ」
「オールナイトのイベントでも、きっとみんななら連れ出すからなあ」
「悠紗も十歳だし。悠紗の十歳は、けっこう大人だよ」
「……そうだね。十歳か。ほんとに、早いなあ」
「今年は特にいろいろあったね」
「萌梨くんに彼女ができた」
「聖樹さんにもできたよ」
「僕はまだ──はっきり言えてないんだけどね」
「え、つきあわないの?」
「つきあってくれるかな……」
「向こうから声かけてくれたんだし」
「そうなんだけど。すごくいい人だから、僕とかいいのかな」
「すごくいい人には、聖樹さんくらいじゃないとダメなんだよ」
「そ、そうなのかな……」
「……もしかして、一緒にいて、あんまり楽しくない?」
「いや、楽しいよ。クリスマスも楽しかったし、昨日の誕生日も一緒に過ごせて嬉しかった」
「クリスマス、四人で楽しかったよね」
「うん。来年も四人だといいなって思う」
「来年も四人だよ、きっと」
「そうだね。悠がみんなについていって、寂しいなと思ってたけど、むしろにぎやかになったね」
「僕たちがこうなれたから、悠紗も安心して出ていったんだろうなーって思う」
「そうだよね。僕も来年はしっかりしないとな。伊達眼鏡もやめるし」
「あ……それは、ほんとに、無理してない?」
「うーん、無理してないことはない」
「ゆっくりでいいよ」
「ありがと。仕事とかではとうぶんかけてる。お茶のときはね、やめようと思うんだ」
「デートのとき?」
「そう。ちゃんと目を合わせて話したいから」
「そっか。そういう人が聖樹さんと仲良くなってくれて、僕はすごく安心してる」
「はは。気持ち、きちんと伝えるよ。うやむやにいつのまにかつきあうのは不安だから」
「がんばって。──あ、今年があと一分だって」
「ほんとだ。あっという間だなあ。萌梨くん、今年もありがとうね」
「僕こそ。今年も聖樹さんと年を越せて嬉しい。ありがとうございます」
「来年もよろしくね」
「うん、よろし──あ、年変わった」
「あけましておめでとう」
「おめでとうございます。ん、何かケータイに来た」
「僕にもメール来た」
「僕もメールだ。あ、また来たよ。悠紗だ」
「お互い少し返信しようか」
「そうだね。こういうとき、つながってる人がいるっていいね」
「ほんと。大切にしていかないとね、みんなのこと」
「うん。僕もそう思う」
2002.12.31→2003.1.1
鈴城家リビングにて
会話SS『星の下に』【XENON】
「ふたご座流星群がすごいらしいぞ」
「あ?」
「今夜、十年に一度だと。ネットニュースに上がってる」
「見たいのか」
「梨羽は好きなんじゃね。おい、まだ泣いてる?」
「……音楽でたぶん聞こえてない。ちょっと落ち着いてきた」
「梨羽さーん。星見たいですかー?」
「ライヴ終わったんだからほっとけよ」
「えー。次のパーキングでちょっと空見ようよ」
「飯食うために寄るのは寄るから黙れ」
「はい」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……煙草吸いてえ」
「黙れと言った方が真っ先にしゃべりました」
「お前の煙草よこせよ」
「やーだー。高速乗る前に買わなかったお前が悪い」
「ちっ。つか、誰かのスマホに何か来てるぞ」
「梨羽のスマホだけど」
「見せてやれ」
「──梨羽、見る?」
「聖樹かなー。萌梨かなー」
「そういや、最近悠から連絡来たか?」
「悠からの連絡は紫苑だろ。どうよ」
「冬のフェスとかイベントでいそがしいとは来てた」
「彼女のことは放置してんのかな。毬音ちゃん?」
「いそがしいってことは、養うために働いてることになるだろ、悠は」
「あの悠が女を養うようになったか。やれやれ」
「聖樹と萌梨も結婚したしな」
「あの合同結婚式はちょっと泣いたわ」
「聖乃ちゃんと千羽ちゃんも綺麗だったな」
「四人で暮らしてんだっけ。あ、待った。スマホ何か来た」
「パーキング一キロ先にあるぞ」
「マジか。よっしゃ食うぜ! お、聖樹だわ」
「何?」
「萌梨のメール見たかって……え、さっき梨羽に来てた奴?」
「梨羽、何だよ。言えないなら紫苑に言わせろ」
「………、えっ」
「『えっ』?」
「『えっ』って何ですか」
「子供が、できたって」
「は!?」
「え、子供……って、萌梨に? 聖樹に?」
「萌梨」
「マジか!」
「うあーっ!!」
「やべえ、今俺かなりやばい」
「いや、俺のほうが発狂しそう」
「わーっ、地元帰って萌梨の頭くしゃくしゃにしてえ」
「孫だわ! 俺らにとってももう孫だわ!」
「あー、って、もうパーキングだな。入るぜ」
「あいよ」
「おい梨羽、とりあえず萌梨に返信してろ」
「俺も聖樹に返さないと。いや、腹も減った」
「うどん屋があるぞ」
「聖樹には煮込みうどんの写メでもつけとくか」
「あの。梨羽が降りたいって言ってる」
「え、何で。めずらしいな」
「星が見たいって」
「え、見るの?」
「お前が勧めたんだろ」
「まあそうだけど。泣いてない? 落ち着いた?」
「大丈夫」
「よし、停車……っと。降りれるぞ、梨羽」
「煮込みうどんあるかなあ」
「お前は星よりうどんか。あーっ、やっと背伸びできる。次、運転替われよな」
「はいはい。って、うわあっ、確かに星、すごい? すごいの、これ?」
「普通を知らん」
「そうなんだよな。俺も普通の星空とか見たことなかったわ」
「梨羽はけっこう見てるけど──どう?」
「………、」
「ノーコメントか」
「すげえ寒いな。入ろうぜ。うどんでいいのか?」
「……この世界に来るんだね」
「ん?」
「何か言い出した」
「たくさん、あの星の数より、つらいのに。生まれてくる」
「はは、そうだよー。地獄に生まれてくるんだ」
「あー、そんな歌詞、初期にあったな」
「生まれてきてくれる。みんなが見てる星の下に」
「……そう、だな。うん」
「あっ、じゃあさ、今からダチにこの空見ろって言おうぜ。俺、聖樹にメール返すわ」
「よし、萌梨には俺がメールする。悠は紫苑だな」
「分かった」
「僕……空、撮る」
「よしよし。買ってやったデジカメを使いなさい」
「トランクだったか?」
「俺も探すの手伝う」
「──梨羽。子供が生まれてくることは、哀しい?」
「………、星の数くらい、生きてると嫌なことがある。けど、その星の下でみんなとつながってる」
「……ああ」
「あの星の中にいたら幸せなのに、この世に来ることにしてくれて、嬉しい」
「ほんとに?」
「うん。嬉しい……早く、会えるといいな」
「そうか」
「星も、すごく綺麗。……あの中から、みんな、この世界に生まれてくるんだね」
──────
XENON
2015.12.14 AM
Midnight
──────
会話SS『Rainbow Voice』【柊と紗琴】
「ごめんね、紗琴ちゃん。クリスマスイヴに打ち合わせなんて」
「大丈夫です。お昼はどっちみち何か書こうかなと思ってたくらいなので」
「彼氏は?」
「仕事がありますから。夜は一緒に過ごします」
「そっか。楽しみだね」
「はい。塩沢さんも彼氏さんと?」
「まあ、うん。一緒に暮らしてるから、帰るだけなんだけど」
「私も紫優くんと早く一緒に暮らしたいです」
「そしたら結婚? あんまり気にしない?」
「結婚……したいですね、私は」
「そっか。式には呼んでほしいなあ」
「呼びますよ。塩沢さんには、ずっとお世話になってるので」
「お世話できてるかな」
「塩沢さんが『レインボーボイス』に誘ってくれなかったら、こんなに書き続けてたか分からないです」
「そっか。看板作家になってくれた子にそう言ってもらえると嬉しいよ」
「看板になれてます?」
「看板娘だよ」
「じゃあ、これからも頑張ります」
「うん。『レインボーボイス』立ち上げたときは不安のほうが大きかったけど、今は俺も自信あるから」
「スマホでも読めるLGBTQ+のWeb雑誌って、ありがたいですよね」
「俺の学生時代は、知識が欲しくても本とか気軽に手が出なかったからなあ」
「私も昔、セクマイ専門のSNSに飛びこむ勇気が出なくて。見てるだけでした」
「『君はひとりじゃない』ってことを伝えていけたらいいよね」
「そうですね……私は親友に恵まれてたからいいけど、彼女ほどの親友ってほんとはきっと簡単にできないと思います」
「俺も、今でこそ友人は増えたけど、自分はこの世でひとりなんだって絶望したりしてた」
「だけど、今はクリスマスイヴを過ごす恋人がいるわけですから」
「はは、そうだね。あの頃の自分に言ったら絶対信じないな」
「塩沢さんも、彼氏さんとは中学からですよね?」
「卒業式に俺から夏樹に告ったかな」
「塩沢さんこそ、パートナーシップとかそういうのって」
「俺たちはあんまり形式にこだわってないけど、病気になったときとか考えたら、いつかきちんとすると思う」
「塩沢さんの結婚式は人多そうですね。『レインボーボイス』の編集長ですし」
「そうだなあ。だから、割り切って身内で済ますかもね」
「大勢だったら、誰かの出逢いの切っかけになったりして」
「そういうのもあるか。考えておくよ」
「はい。じゃあ、今度の原稿の話ですよね」
「そう。二月号に掲載するぶんで──……
2020.12.24
塩沢柊(34)×日向紗琴(23)
某カフェにて
ライナーノーツ『EXPLICIT CONTENT』【enfant terrible】
enfant terribleと名乗る四人の少年たちが現れて、もう二年になる。結成から彼らを追いかけてきた僕としては、あっという間の二年間だった。ヴォーカルの夏椰。ギターの悠紗。ベースの初生。ドラムスの濂。「そろそろ子供じゃないね」と言ってみると、「年上がいる限り、俺たちはまだまだガキだよ」とメンバーは笑う。
このアルバムを手に取っているのなら、彼らのことはよくご存知だろう。それは充分承知で、改めてenfant terribleのサラブレッドなルーツを振り返ってみることにする。
ヴォーカルの夏椰、ドラムスの漣がenfant terribleの雛形だった。夏椰はBazillusのドラムス、双葉の息子として育った。が、ヴォーカルを務めている通り、夏椰の憧れはBazillusのヴォーカリスト、夏陽である。夏椰は幼い頃から夏陽にヴォーカリストの手解きを受け、その隣で幼なじみである漣は夏椰の父である双葉にドラムスを教わった。幼い頃から、今や伝説的バンドであるBazillusから「音楽」を吸収して育ったのだ。
だが、ギターの悠紗の師も驚きである。いまだ決してメジャーに進出しない、インディーズ界で知らぬ者はいないXENONが悠紗の師だった。あのゆがみきった爆音は、XENONの紫苑から譲り受けたと言われたら納得する人も多いだろう。悠紗は父がXENONの古い友人であり、かわいがられて育ったようである。enfant terrible結成の一年前までは、XENONのサポーターとして全国をまわって活躍するほどであった。
ベースの初生は、現在ヴォーカルの聖衣の体調不良で活動休止中のfetiageのギタリスト、春海の弟である。アコギもエレキも、ベースにも生まれたときから自然と触れ合って育った。教わったというより、ただとにかく、何か楽器に触っていないと落ち着かない性だったという。そして、ある日enfant terribleのベース募集を知り、軽い気持ちで応募した。それが、難航していたベース探しで、最後の一ピースとなったのである。
「歌詞書くとき。ライブのとき。収録のとき。それぞれ、降りてくるんだよ」(夏椰)
「作るときに何が重要かって、待つことなんだ。早く仕上げればいいってもんじゃない。時間をかけりゃいいってもんでもない。熟して、うまい一瞬があるんだ」(悠紗)
「その一瞬を逃したら、もう腐るんだよな。俺たちストックはほんと多いよ。その中から、うまくなってるもんを曲にしていってる」(初生)
「それぞれではあるけど。どんどん熟して、絶え間なく曲にできる奴もいる。なかなか熟さなくて、スローペースの奴もいる」(漣)
僕はもともとBazillusを追いかけていたから、実はenfant terribleの幼少期もある程度知っている。夏椰と漣は三歳の頃から。悠紗はXENONと全国をまわりはじめてだから、十歳かそこら。初生を知ったのも、Bazillusとfetiageが対バンしたときだから、まだかなり幼かった。
enfant terrible。恐るべき子供たち──フランスの詩小説から来たのは有名だろう。
このアルバムを聴いてみて、確かに感じるのではないだろうか。夏椰の突き抜けて穴を空けるような声。悠紗のいびつなほどキレまくるギター。初生の重く響く不安をかきたてるベース。漣の暴れるように殴りつけてくるドラムス。子供の頃から、彼らはその音を育んできた。
そう、そこには子供ゆえの無邪気さと残忍性がある。enfant terribleは聞くなと言う大人たちがいる。それほど大人たちを恐れさせる、早熟な──若干二十歳前後の子供たち。
「俺たちって、間違いなく毎回EXPLICIT CONTENTのバンドだよ」(夏椰)
ぜひ感じてほしい。お前のガキがどうなってもいいか? 親たちにそんな勧告をするほど、露骨な歌。このアルバムは、きっとまた、社会を揺るがす問題作になるだろう。
あとがき『風切り羽』【月ノ羽衣】
登校拒否ってた中学を卒業する頃に書きはじめた作品です。
二ヶ月後の六月になった日に書き上げたので、すさまじいエネルギーで書いたことだけは確かです。
私は小学生あたり腐っていたので、「同性間の性的虐待」を書こうとふんわり思ったとき、あろうことかBLとして書こうかと考えていました。
しかし、新聞記事に若者の性をあつかった連載コラムが載っておりまして。
同性愛、援助交際、性同一性障害……そして、性的虐待が順番に取り扱われました。
その記事を読んで、性被害の深刻さに頭をぶん殴られました。
だめだ、BLとして書くなんてもってのほかだ……!!
ぶん殴られた私は、何としてもこの衝撃を書き残さねばと『風切り羽』のプロットを組みました。
主要登場人物が少なかったので、実はXENONは取って付けた存在です。
私が受けた衝撃、そして萌梨くんが受ける虐待を、読むことで『疑似体験する』作品にしたいと思いました。
作品としては劇薬ですが、初めて二十代前半でWeb上で完結したとき、50件くらい感想をいただきました。
その中には、性被害を受けたという方もいました。自分が性加害者だったと気づいたという方もいました。
性被害者の方には、『風切り羽』という作品を読むことは地獄だったでしょう。
それでも最後まで読んでくれた。萌梨くんに光射すところまでついてきてくれた。
すごくありがたいし、「この作品を読み抜いたあなたなら、これからも乗り越えていけるから」ということを私は伝えたかったんだなとしみじみ感じました。
あのときコメントをくださった方で、またここで『風切り羽』を読み返してくださった方がいらしたらすごく嬉しいです。
もう届くことはない方もいるでしょう、だからこそ、「萌梨くんたちと再会したよ!」というお声を聞けたら「いままで書いてきてよかった」と私も思える気がします。