万華鏡の雫-14

万華鏡の雫

 転校する前日、早凪は“好きな人”である幼なじみに告白を拒絶され、両親に同性愛者であることを密告されたことを俺に打ち明けた。
 両親は半狂乱になり、早凪に対して虐待に等しいしつけを始めた。早凪も、家庭を逃れたくてこの全寮制に来たのだ。だが、泣き散らしてパニックになったことが親に知れて、早凪は実家に引き取られることになった。“好きな人”のパーツは学校ではオブジェで通ったが、たぶん家に帰れば没収されるだろうし、最悪、しかるべき場所に通報される。
「戻って大丈夫なのか」と訊くと、「またたくさんたたかれるだけだよ」と早凪はつぶやいた。そんな虚ろな声のまま、早凪は俺と目は合わせずに最後の夜を眠って過ごし、俺と恵波にだけ見送られて寮を出ていった。
 俺はしばらくひとり部屋を満喫することになり、そこで恵波とよく過ごした。
 再開した学校は卒業式を終えて、三学期は残りわずかだった。三月になっても、まだひんやりと空気に冷たいけど、風が少しだけ温もりをはらむ日もある。ゆっくり自然が息づいて、花や草の匂いが揺らめき、その色彩も灯りはじめた。
 日曜日、その日も俺は恵波と部屋で寄り添いあっていた。
 恵波は、まだ心配そうに俺を見る。そんな恵波を抱き寄せ、その日、俺は早凪と交わした契約も途中まで進みかけた関係も話した。「葉鳥くんは水澪が好きなんだろうなって思ってた」と恵波は小さな声でぽつりと言った。俺はかすかに咲ってしまい、「俺のどこが良かったんだろうな」と言った。
 恵波は俺を見つめて、ぎゅっとしがみついてくると、「水澪はね」と俺の心臓に耳を当てた。
「誰にも渡したくない、って思わせる」
「ん……そうなのか?」
「僕は、水澪の死体なんて怖いけど。でも、葉鳥くんの気持ちは、分かるよ」
「………、」
「もし、水澪が僕をこんなふうに受け入れてくれてなかったら、僕はひとりぼっちで。ひとりで、先生とも闘わなきゃいけなかった」
「……恵波」
「水澪は優しい。僕のために殺されてもいいなんて……バカみたいに優しい」
 俺は恵波の頭を撫でた。恵波は俺を見上げてくる。
「もう、そんなこと思っちゃダメだよ?」
「……うん」
「僕のそばにいなきゃ、ダメだよ?」
「ん、そうだな」
「水澪が生きてるから、僕は幸せなんだ」
 俺は恵波を抱きしめ、顔を覗きこんで優しくキスをした。俺も恵波も、ずいぶんキスがうまくなった。恵波が切なく俺の名前を呼ぶ。俺は恵波をそっと床に倒し、彼にはすぐさま刺激が硬くなるのを感じながら、急いで服を脱ぎはじめる。
 人には、いろんな愛情のかたちがある。それは常識ではないかもしれない。病的なものかもしれない。犯罪に等しいかもしれない。それでもやっぱり、それが心のよりどころである限り、どうしようもなく愛なのだ。認められなくても、認めてはいけなくても、その人にはその愛が自分だけの居場所になる。
 愛のかたちは、ひとりひとり違う。同じものなんてひとつもない。
 万華鏡を覗く。まわして現れた模様は、一瞬しか見れない。二度と同じものは現れない。そんなふうに、ひとりずつ違う色彩が、その人を生まれた瞬間から生かすのだ。
 万華鏡から一瞬がしたたったようなそれは、自分だけの光で、自分からの出口で──きっと、愛する人と結ばれる交差点につながる、道しるべなのだと思う。

 FIN

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