学校の授業なんて、聞いていても学力にならない。試験でいい点を取るには、塾、塾、塾だ。だから僕は、学校の授業は出席日数のためだけに出て、いつも授業中はでたらめに考えている。
学校と塾のあいだの時間は、うざったい家に帰るより、通学路の土手の野原で小説を読む。
日の長い夏で、草いきれが蒸しているけど、たまに風が抜けるからわりと涼しい。ふわりと眼鏡にかかった前髪をはらって、せせらぐ川に夕暮れが揺らめくのを眺め、ぱたん、と仰向けに倒れて草に背中を預ける。
空がパノラマになって、僕までその色に溶かしそうな赤が視界に広がる。どこかで蝉がまだ鳴いている。
「星生くん」
ぼんやりするまま、ちょっとうつらうつらしていたかけていたときだ。ふとハスキーな女の声がして、片目を開けた僕は「ああ」とかったるい声を返した。
「和月」
さくさく、とスニーカーで草を踏んで、セーラー服の和月は指先でセミロングを梳きながら僕の隣に腰掛けた。
「また、塾サボってるの?」
「サボったのはあの日が初めてだよ」
「怒られた?」
「まあね」
「私も帰りが遅かったから怒鳴られた」
和月に首を捻じった。夏休み前のまだ白い肌が、夕焼けに映えている。
僕の視線に気づいた和月は、少し首をかしげ、長い睫毛を夕陽に透かした。そして、ゆっくり僕に身を重ね、柔らかな唇も重ねてくる。リップクリームのフルーツの匂いがした。その香りを食べるように、僕は和月の唇を噛んで、朱色のスカーフをつかんでもっと顔が近づく。瞳が至近距離でぶつかって、和月は僕の眼鏡に細い指をかけながら笑う。
「公認の首位ライバルが何やってんだか」
僕もちょっと笑って、和月にされるまま眼鏡を外す。伊達だから視界は変わらない。
「期末が始まるな」
「塾サボるのやばい?」
「それなりに」
「行かなくても、頭良さそうなのに」
「行ってるから頭良さそうなんだよ」
「ほんとは悪い?」
そう言う和月の髪が首筋をくすぐって、そのまま熱い舌が這う。僕の耳を食んで、手が手をつかむ。僕の左手はプリーツスカートの中に導かれ、熱っぽいそこで湿り気が指に触れる。
「星生くんはした?」
「……何を」
「私はした」
「………、出さないと頭が変になりそうだったから」
僕は和月の湿り気をたどって、その核を中指の腹でこすった。びくっと、和月の反応が重みとして伝わって、僕はその腰に右手を添えて抑える。
「口開けて」
和月は僕を見て、口を開けた。それを塞いだ僕の舌に、出した舌を絡めてくる。口づけ合いながら、僕は和月の濡れた襞を、和月も僕のスラックスのファスナーをおろしたものを刺激する。
荒くなる息が、血のような夕射しに喘いで壊れていく。唾液を絡めた指で和月の入り口をなぞって焦らすと、和月は吐息を痙攣させ、とろりと粘液がもつれて僕を求める。和月の手でじゅうぶんになっていたもので、僕は彼女を遠慮なくつらぬいた。
スカーフをほどいて、セーラー服をはだけさせて、ずらした下着からあふれた乳房で、彼女の快感をなぶる。卑しく激しく求め合って、夏の長い夕暮れが終わるまで、僕たちは素肌を夏の空気より火照らせた。
あたりは月と星以外、暗くなっていた。また塾の時間を過ぎていた。ご丁寧に脱いだわけでもない制服が、いつのまにか乱れている。僕の開襟シャツははだけ、和月は上半身は何も身につけずに夜風に鎖骨も乳房もさらしている。始まった夜の中で、その緩やかなシルエットはすごく綺麗で、彼女がこちらを向くまで僕は和月を見つめていた。
明日から期末考査で、試験勉強のために教科書を開くと、びっしりと授業中のそんな落書きが残っている。僕は星生なんて名前じゃないし、和月は話したこともない学年一の美少女がモデルなのだろう。
こんな話がほんとにあるなら勉強も頑張れるんだけどね、と僕は綴った上の空の落書きを消しゴムで終わらせる。そして、塾の先生が言っていたことを、シャーペンでノートに何度も吐き出す作業を始めた。
FIN