赤い水源
すべりゆく鮮紅に目をこらした。
深紅の雫は、白い肌を進んでいく。水のようにさらりとはすべらず、肌の産毛にねばついて落ちていく。血が通った痕は、乾くと涸れた赤い川のようだ。
俺は明かりを受けて艶めく血を見つめた。深紅の新鮮な命は、体内を流出してどす黒くなる。指先にいっときぶら下がったのち、雫は俺の軆と剥離した。
雫は空中を瞬間的に通り抜け、洗面台の白い陶器につぶれた。散った深紅は、白い陶器の上で、罪人のように照らされる。ぽつぽつと音を響かせ、暗紅と深紅が混じりあう。
血の雫は指頭で実り、熟すと落下する。赤い果実は陶器の腐った広がりになじむ。
俺は腕に伸びる血の川を目でねぶった。あっという間に、枯渇した川ではなくなっている。赤く潤い、白光に反射して輝いている。その川の水源を俺は熟視した。
水源の近くが、どくんと脈打つ。そのたび赤い雫が生まれた。澱んだ液体が青白い肌を流れる。
しばらくすると、その流れはとどこおりはじめた。脈打ちが弱くなり、水源が生臭い粘体に窒息してくる。
カミソリを握りしめた。赤くきらめく刃を水源に押し当てた。銀は赤に犯され、ねばつきに沈んだ刃で、俺は水源をえぐりひらく。止まりかけた血があふれて刃をおおう。俺は刃をさらに押しつけ、肌に赤い水源を拓く。
肌に血が流れる。俺は見つめる。青白い肌に血が流れる。
これは俺の血だ。俺の肌が生んでいる。俺の肌は血を生める。陶磁器は血を流さない。彫刻に血は通っていない。俺の肌は血を生む皮膚だ。
俺は人間だ。彫刻ではない。皮膚には血管が透いている。
俺の皮膚は青白い。まるで陶磁器だ。さもなくば精液だ。
彼の精液に似ている。俺の肌は青白い。血管が青白い。精液は青白い。俺の血管には精液がかよっているのか?
違う。血だ。青白い。……そう、俺の血は青白い。
気づけば、川は濁流になっていた。白い陶磁器には真っ赤な湖がある。波紋が起きては、拡大する。ぽたぽたとしたたるのは、真っ赤な精液だ。
血だまりにカミソリを押しつける。血は傷が生む。俺は傷口にカミソリを押しつける。すり動かす。澱む血のねばついた唸りがする。真っ赤な裂けめが開く。笑う口元のように。
血があふれる。赤い雫が肌をすべる。俺の肌に。精液の肌に。血が流れる。
精液に傷口を掘る。深く。彼の精液に俺の血が流れる。
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