ナーシャは夜に舞う-13

今度こそ

 つないだままの手を握りなおし、もう一方の手では紗鈴ちゃんの豊かな乳房を捕らえる。紗鈴ちゃんは身を硬くしていても、拒む様子は見せない。
 紗鈴ちゃんの首を丁寧にキスでほぐして、再び僕は唇を重ねた。紗鈴ちゃんは応えることはしなくても、僕の舌は受け入れる。
 皺がつく前に、紗鈴ちゃんのブラウスを脱がせた。紗鈴ちゃんの胸はやっぱり大きくて、ブラに収まらずあふれそうだった。僕はホックをはずしてブラをするりと取りはらうと、紗鈴ちゃんの乳首を指先で転がした。
 紗鈴ちゃんが僕とキスを交わすまま声をもらす。僕のものはボクサーの中でどんどんふくらんでいく。これパイズリもできるやつじゃん、と紗鈴ちゃんの胸を揉みながら思ったものの、それをお願いするのはぶしつけなのでやめておく。
 唾液を引いて唇をちぎると、自分のバスローブを脱いで、紗鈴ちゃんのスカートも脱がせた。そして紗鈴ちゃんの脚を開くと、ラベンダーのショーツの上から入口を舌先で湿し、核を指で刺激した。
 紗鈴ちゃんの弱い喘ぎ声がエロい。ショーツが濡れてきて、僕はそれも脱がせた。入口はしっとり湿って柔らかくなり、僕の指を意外なほどあっさり飲みこんだ。
 もしかして、処女ではないのかもしれない。それでもいいけど。
 指を増やして、水音がたっぷり響くぐらい濡らしていく。同時に核も舌ですくったりきゅっと吸ったりして、そのたび紗鈴ちゃんの奥がきゅんと締まった。
 吸いついてくるような内壁で、じゅうぶんほぐれたと感じたら、僕はいったんベッドスタンドに手を伸ばしてコンドームを取り、ボクサーを脱いで硬くなった自身に装着した。そして紗鈴ちゃんの脚を抱え上げると、先端で入口を何度かつついて、ぐっと押しつけたのと同時に、ずるりと中に入った。
 熱い柔らかさが僕を圧迫してくる。気持ちいい、と自然と呼吸を乱しながら思って、僕はさらに奥までつらぬいた。紗鈴ちゃんがつながった僕の手をぎゅっと握りしめる。
 僕は全部入った状態でしばらく止まっていたけど、「動くよ」と言って、紗鈴ちゃんがこくんとすると、中に自分をこすりつけながら突きはじめた。紗鈴ちゃんは僕が奥に届くたび短く声を出し、その煽情的な艶に僕はいっそう興奮して、腰を動かす。
 つながった性器から溶け合わせるように揺すぶり、僕は紗鈴ちゃんをもう一度抱きしめて、耳を食んだ。紗鈴ちゃんは引き攣った呼吸が、僕の理性を奪っていく。
 かわいい。かわいい。この子が好き。ほんとに好きなんだ。代わりでも何でもいい。この子とつながれて、気持ちよくて、僕は幸せだ──
 男相手にタチをするときもそうだけど、僕は攻める側になったら自分が達することには執着しない。それより、相手の絶頂を探る。
 僕は紗鈴ちゃんを突き上げながら、優しく核も指で刺激した。紗鈴ちゃんの腰が、がくがくと力を失っていき、爪先まで引き攣る。肌がぶつかり合う音がぱんぱんと激しくなって、白い乳房が揺れ、紗鈴ちゃんが泣きそうな声で「だめ」とか「いく」とかこぼしはじめる。
 僕は紗鈴ちゃんの核の一番反応がある角度をなぞって、中は僕でいっぱいに満たした。紗鈴ちゃんが声を断続的に上げ、大きく腰がわなないたと思うと、ひときわの嬌声と共に中がびくびくと痙攣した。
 ぐったりベッドに虚脱した紗鈴ちゃんに、僕はゆっくり自分を引き抜いた。紗鈴ちゃんの膣から、血は出ない。コンドームを剥がしても硬かったので、自分の手で少し刺激すると、シーツに出てしまった。
 ため息をついて紗鈴ちゃんの隣に寝転がると、筋肉なんかない腕だけど腕まくらをしてあげた。紗鈴ちゃんは僕を見て、あやふやに咲うと「何か、いやらしくてすみませんでした」と言った。「かわいかったよ」と僕はささやいて紗鈴ちゃんの髪を梳く。
「私、あんまり……その、こういうので感じたことなかったんですけど」
「やっぱ、処女ではなかったんだ」
「……昔、好きだった人としたことがあります」
「彼氏?」
「彼女のいる人だったので」
「……そう」
「でも、その人……こんなじゃ、なくて。自分が気持ち良くなるためって感じでした」
「下手だったんだよ」
「そう、なんですか?」
「女の子を良くもしないで自分だけとか、セックスが下手な男の代表」
「……そうですね。彼女がさせてくれないから、私でしてるみたいでしたし」
「最低じゃん。それ、いつ?」
「高校生のときです。……担任の先生でした」
 僕は紗鈴ちゃんをちらりとしてから、その軆を抱き寄せた。ぽかぽかと温かくて、ほわほわに柔らかい。
「つらかったね」
 紗鈴ちゃんは僕の胸に顔を当てて、何も言わなかった。僕は紗鈴ちゃんの頭をずっと愛撫していた。「眠かったら、寝ても大丈夫だよ」と言うと、紗鈴ちゃんはこくっとした。
 そのあとは特に言葉を交わさず、ただお互いの素肌の温度を感じていて──どちらからともなく、眠ってしまっていた。
 翌朝、目を覚ますとひとりでベッドに寝ていたので、え、と一瞬焦った。けれど、かすかにシャワーの水音がしたのでほっとして、置いていかれたらかっこ悪いところだった、と息をついた。
 時刻は六時半だった。窓がないので太陽がどのへんかは分からない。ベッドの真ん中でぼんやりして、紗鈴ちゃんと寝たのか、と改めて思った。
 してる最中は、何だろうが幸せだと思った──けど、代わりかあ、と自分で言い出したことながら悔しくて、うめいてシーツに顔を伏せてしまう。酔っていたから、何を言ってでもする気になってしまっていた。代わりでもいいって、何だそれは。嫌に決まっている。
 僕と軆を重ねて、瑞砂くんのことなんかどうでもよくなってないかな。僕のことを少しは意識してくれてないかな。でも、たぶん、女の子の心ってそんなに単純じゃない。やれば情が移るなんて、そんなに簡単なら、片想いをしている人は、うまいこと相手とセックスさえすればいいことになる。
 むしろ嫌われてないかな、とどんより不安になっていると、シャワーの水音が止まった。僕は急いでボクサーだけ履いておき、スカートしかないから女装しなきゃいけない、と思い出したりする。
 紗鈴ちゃんは僕が昨日買ってあげた服でなく、ざっくりした服のほうでバスルームを出てきた。髪が濡れて、化粧も落ちている。
 僕が起きているのに気づくと、他人行儀に会釈したので、何だか咲ってしまった。「ごめんね」とつい言ってしまうと、紗鈴ちゃんは首を横に振り、ベッドサイドにちょこんと腰かける。
 ラブホテルの安っぽいボディソープの香りがする。つきあってたら、いちゃいちゃしてその背中を抱きしめるのになあ、と思っても、僕は紗鈴ちゃんに手を伸ばせず、「僕もシャワー浴びてくるね」と服や化粧ポーチを手にしてその場を逃げてしまった。
 僕がシャワーを浴びて、服も化粧も髪型もしっかり決めて女装を完成させると、僕と紗鈴ちゃんはホテルを出た。
 月曜日の朝なので、会社に出勤する人たちで駅前はざわめいていた。太陽はすっかりすがたを見せ、早くも空気が煮え立っている。
 僕は紗鈴ちゃんの路線の改札まで彼女を見送って、それからラッシュを避けてタクシーで八時半くらいに自分の部屋に帰ってきた。蒸していたので、クーラーをつけ、ふとんをばさばさと敷くと、化粧落とさないと、と思いつつぼふっと倒れこんでしまう。
 蝉の声が虚しく通り過ぎていく。
「あーあ」とひとりごとがもれる。
 何というか、これは実に──やらかしてしまった。
 朝の白い光に視線を泳がせ、数時間後には店で紗鈴ちゃんと顔合わせてるのかあ、と気まずくなった。普通にできるだろうか。ママに感づかれたらやばい。僕より紗鈴ちゃんが危ない。
 職場の相手と関係を持つって、こんなに面倒だったのか。紗鈴ちゃんに〈ナーシャ〉を辞めてほしくなかったけど、辞めるというときに告白したほうが、マシだったかもしれない。深いため息をついて、しばらくぼおっと意識を揺蕩わせていたけど、ひとりで悩んでても仕方ないと、スマホをトートバッグから取り出した。
 迷わず泪音のトークルームを呼び出し、だらだらした長文を送りつけるより、思い切って通話をタップした。スマホを耳に当てる。コール。寝てるかな。コール。〈ピーチィミルク〉で飲んだくれてるかも。コール。仕事中ってことはないだろうけど──不意にコールが切れ、真っ先に、あくびが聞こえた。
『ふあ……ええと、誰? あれ、誰だっけ』
 ごそごそと音がしたあと、『ああ』と眠たそうな声がした。
『咲羽か。何? まだ寝てないの?』
「……泪音」
『ねむ……何時? うわ、九時? ねっむ! 何やってんの』
 何と切り出せばいいのか、無言電話になりかけていると、『何』と泪音の怪訝そうな声がする。
『どうかしたの。何かあった?』
「僕、は」
『うん』
「もう……どうしたらいいのか分からないよ」
『はあ……?』
 泪音は意味が分からないようにまたあくびしたものの、昨日の僕が誰と何をしていたか思い出したのか、『あー』と声を漏らす。
『もしかして、告ったとか』
「う……まあ、うん」
『マジか! 振られた? いや、咲羽が振られるってないかあ。うまくいったの?』
「振られ……た、けど」
『は……はっ? マジで? 咲羽が? 咲羽が振られたの?』
「けどっ……その、何やかんやあって、やりました」
 泪音は何秒か沈黙して、『待って』と言って物音をさせたあと、『はあっ』と何かを飲んだような息をついた。
『びっくりして喉渇いた』
「……びっくりして喉渇く?」
『やったってエッチ? セックス? ファック?』
「全部同じ」
『最後まで?』
「……うん」
『うおおおお、あわびとやったとか、うええええええ』
 露骨に吐くような声を出す泪音に、「僕はゲイじゃないのっ」と僕はむくれてしまう。
『でも、男ともできるんだから、男にしときなよ。絶対男のほうがいいよ』
「だって好きなんだもん! かわいいもん! くそっ、待って、紗鈴ちゃんの写真送る」
『店で見たことあるよ。憶えてないけど』
「いや、昨日僕がすっごくかわいくしたんだ。ゴスロリ美少女。その写真を送る」
『いらないよ、女の写真なんて。やめて。送らないで』
「かわいかったんだよ」
『はいはい。それで襲ったんですね』
「ていうか、まあ、キスは。それで告白して、瑞砂くんが好きだって振られて──瑞砂くんの代わりでいいって言って」
『はあ? バカなの?』
「酔ってたんだよ。紗鈴ちゃんも酔ってたし」
『酔わせて襲ったの』
「わざとじゃないし! 気づいたらけっこう酔っちゃってたんだ。何もしないつもりだったんだけど、ホテル入るとそうなるね。何なんだろうね、あれ」
『ほどよく最低だね』
「………、泣いていい?」
『えー、今からそっち行って胸貸すの? 眠いんだけど』
「電話のままでいいから泣きたい」
 泪音はため息をついて、『何とかちゃんのほうはどうだったの?』とやっとまじめな声で訊いてくる。
『咲羽に犯されて泣いたの?』
「犯してはないけど」
『女からしたら同じでしょ』
「そんな」
『終わったら逃げるように帰っていったの?』
「いや、朝まで隣で寝てて。シャワーも別々だけど浴びて。駅まで一緒に来た」
『つきあいはじめてるじゃん』
「雰囲気、微妙だったよ」
『やりまくった翌朝なんてそんなもんだよ』
「まくってないよ! 一回しかしてないよ」
『でも、がつがつと腰振ったんでしょ』
 僕は死にたくなって何も言えず、顔を覆いたくなる。
『咲羽が嫌になったり、後悔してたら、女ってとっとと帰ると思うよ。ちゃんと隣にいたってことは、けっこう情移せたんじゃない』
「……マジで」
『つか、うまく情移しちゃえばいいじゃん。そのままいちゃいちゃくっついてたりしてたら、あんがいさくっと落ちるかもよ』
「い、いい……の、かな。それって」
『自然と好きになってもらうとか甘ったるいからね? 攻めるの。攻めていいの。それが恋愛なの』
「恋愛、ですか」
『僕は咲羽が女とつきあうとか、おもしろくないけどさ。本気なら応援するよ。本気なんだよね?』
「本気だよ」
『じゃあ、まず、次は酒はやめときなさい』
「う……、はい」
『つきあってから、また楽しくたしなめばいい。口説くときに酒使うとかマジでダメ。行きずりじゃないんでしょ?』
「うん」
『酒の力なんて情けないからね』
「……はい」
『告白して気持ちも知られてるんだし、なるべく一緒に帰るとか、デートに誘うとかして一緒に過ごすの。一度告ったからって、あとは想ってるだけとか意味ないよ。何度も好きだよって伝える。伝わるまで伝えるか、振られるまで伝える』
「一応、振られてるんだけど」
『ほかの男が好きだとか、そんな言い訳ノーカン。咲羽自身を見て、決めてもらうの』
「そ、そっか。何か泪音が男らしく感じる」
 僕の言葉に、『やめてえ……』と急に泪音はなよっとした声を出す。
『僕、そんなむさくないもん』
「褒めたんだけど」
『嬉しくない。ま、頑張りなよ。あっ、そういや何とかちゃんってストレートだよね』
「ま、まあ。瑞砂くんが好きなんだし、そうだと思うよ」
『あのイケメンが好きだって女に、まさか女装で告ってないよね?』
「そこは、えと、男のほうでした」
『そっ。ストレート相手なんだから当然だけど、異性って思ってもらいなよね』
「ん。分かった」
『よし。じゃあ、さすがにあれだ。眠い』
「ごめんね。泪音の意見を一番聞きたかった」
『うふふ。それは嬉しい』
「紗鈴ちゃんのこと、真剣に落としにいく」
『頑張れ。今度ピーチで、改めてデートの話も聞くよ』
「そうだね。じゃあ、おやすみ」
『おやすみー』
 スマホを耳から離し、終了をタップする。いつのまにか部屋の中は明るさが増し、クーラーがきいて涼しくなっていた。僕はまくらに頭を乗せ、そっか、と少し冷静になって考える。
 紗鈴ちゃんは、僕と寝て拒絶反応がある様子はなかった。つまり、脈があると言うほどではなくも、ひとまず嫌悪はされていないのだ。
 だったら、僕は押していく。ママに知られたらまずいとか弱気に考えていたけど、そうじゃない、ママさえも味方につけてしまうくらいしたたかに攻めるのだ。
 告白はしてしまった。既成事実まで作った。引くことはできない。僕は紗鈴ちゃんを落として、今度こそ愛し合って軆を交わす。
 この恋を実らせてやる。三度目の恋。今度こそ両想いだ。
 よしっ、と気合いが入ると、寝落ちしてしまう前に化粧を落とし、ルームウェアに着替える気力もやっと湧いてきた。

第十四章へ

error: