ナーシャは夜に舞う-26

目覚めた蝶は

〈ナーシャ〉にひとり、新人のキャストが入った。
 トランスジェンダーの子で、まだホルモン注射くらいで本格的な手術とかはしていないけれど、心は女の子だった。僕よりママに近いだろう。
 すっぴんだと顔立ちは、わりと平凡な男の顔立ちなのに、メイクすると見違えるほどかわいくなるからすごかった。「メイクはめちゃくちゃ勉強したんです」と美瑠みるというその子は照れ咲いする。衣装や化粧品を交換して使ったりして、けっこう僕も彼女と仲良くなった。
 もちろん、美瑠が入って僕が〈ナーシャ〉をクビになったわけではない。僕も相変わらず華やかに女装して、名物男の娘として働いている。
 美海くんもどんどん黒服の仕事のコツを吸収して、頼りになる存在になっている。
 ママは以前より今の従業員たちに満足しているようで、小言を言い出すより、大らかに僕たちを見守ってくれるようになった。
 ナーシャ。それは、復活した女、目覚めた女という意味があるとママが話していたっけ。
 ママや美瑠は、間違いなく男として生まれた絶望から復活し、夜の蝶として目覚めた女だ。
 僕は──まあ、男なのだけど。それでも、女の子よりかわいくなることに目覚めた、一匹の蝶ではある。
 女は復活する。そして目覚めるものなのだ。そう、僕が大切に想うあの女の子だって。きっと、僕の前に美しい黒揚羽になって戻ってくる。
 僕は夜の街で羽ばたく。ネオンがきらきら踊る喧騒を縫って。どんな女の子よりかわいい自分に、勇気と自信を持って。
 これからもいつまでも、男の娘として生きていく。僕は舞う。とびきりの麗しさをこの身にまとって、ひらり、ひらりと、夜に舞う。

 FIN

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