生きていく毎日
スマホがメールを受信して着うたが流れる。
熱帯夜を逃げて涼しいファーストフードで結音と飯を食っていた俺は、スマホを取り出して画面をタップする。春夜からのメールだった。結音はハンバーガーに夢中なので、俺はメールを開く。
『今日から夏休みが始まったよ。
秋陽もおじいちゃんとおばあちゃんと夏休みのことばっかり話してる。
僕も友達とたくさん約束があるから楽しみ。
翼の仕事は順調?
またできたら電話もしようね。』
写真が添付されている。映っているのは、中学生になった春夜と、大口を開けて笑う秋陽だ。
あれから、七年過ぎた。春夜と秋陽がしたことは、すべて、弓弦さんが揉み消した。ただ、春夜と秋陽の父親に金を送っていた人物が、それがふたりの祖父母、あの父親の両親であることを弓弦さんは突き止めた。その夫婦だけには、真実を伝えた。
夫婦はすぐにでも春夜と秋陽を引き取り、幸せになれるよう育てたいと申し出た。夫婦は息子に家出され、とまどいながらも無心されるのでとにかくつながりをと金を送っていた。夫婦が息子の拒絶に心を痛めているのを察した弓弦さんは、ふたりと春夜と秋陽を会わせた。それから、春夜と秋陽は温かい家庭を手に入れた。
幸せそうなふたりの写真を保存しながら、思わず微笑んでいると、目の前の結音という弓弦さんと紗月さんの娘である、八歳の少女が身を乗り出してくる。
「何? 弓弦?」
「違えよ。こら、コーラ倒れるぞ」
「じゃあ誰? あ、うわっ、もしかして彼女?」
「違うっつってんだろ」
「えー、翼に彼女できたらやだなー」
「何でだよ」
「もう翼と一緒にいるのに慣れたもん」
俺は結音を見つめた。こいつが四歳のときから、その面倒を俺は弓弦さんに任されている。大事な娘なのに、俺に預けてくれる。もう四年くらい、ほとんど毎日を一緒に過ごしていて、見落としそうになるけど──やっぱり、美少女に育ったなと思う。
「結音」
「んー?」
「お前の写真撮っていい?」
「えっ」
そう言って目をまばたいた隙に、俺は結音を写真に切り取った。「あーっ」と結音はまた身を乗り出してくる。
「ちょっとっ。ダメだよ、もっとかわいいのにしてよ」
「どんなでも一緒だろ」
「えっ、それひどいっ。ちゃんと自撮りで綺麗に撮るよ」
「これでいいって」
そう言って結音を追いはらいながら、その写真を添付して春夜への返信を打ちはじめる。
誰も俺を見てくれなかった。もういらないがらくたのように。捨てられていた。動けなかった。
でも、弓弦さんが俺のぜんまいを巻き返してくれた。それから何度も、いろんな人が力尽きる前に俺のぜんまいを巻いてくれた。そんな優しいぜんまいじかけで、俺は今、動いて生きている。そして──
『今はこの弓弦さんの娘のそばにいるのが俺の仕事。
こいつに見守られてるから、俺は大丈夫だよ。
春夜も秋陽も、夏休み楽しめよ。
俺も今、この小娘と過ごしてる毎日が楽しいよ。』
FIN
