愛を重ねるように
電車の中は隙間がほとんどなくて、クーラーもほとんど意味がなく、誰かの汗のにおいがいやに目立つ。俺は腕の中に桃を守って、柔らかいなあ、なんて密着する軆に考える。
桃も俺の胸に頭を預け、たまに筋肉をつついてくるから笑ってしまう。桃のいい香りが立ちのぼる髪に鼻を埋め、またエッチなことしたい、とかついつい思ってしまう。
桃とは中学一年生のときからつきあっていて、中学時代は何となく早い気がしてキスまでしかしなかった。高校生になって、高三だったにいちゃんに今度部屋を空けてくれと改まって頼んだら、鼻で笑われたあと「ほら」とコンドームを三枚譲られた。
「三発もしなくていいんですけど」
「一気に使わなくていいだろ。それに、失敗せずにつけられんのかよ」
「……なるほど。いただきます」
「次からは自分で用意しろよ」
「うい。って、どこに売ってんの?」
「どこでも売ってるだろ。薬局でもコンビニでも」
こういう下世話な知識を、兄貴から仕入れられるのはありがたい。司と南に訊くのは、ちょっと恥ずかしい。
そんなわけで数日後、にいちゃんから『今日ホテル泊まる』とメッセを受け取り、俺は桃を部屋に招いた。梅雨に入る直前の、六月の湿気って蒸した日だった。中間考査も終わってひと息ついていた。
俺は肩に寄り添っていた桃に、そっとキスをして、膝の上の手を握った。桃は敏感に察して一瞬とまどったようでも、俺の手を握り返して、口を開いてくれた。俺は少し唇を浮かせて、「下手かもしれないけど」と言った。すると桃は微笑んで、「私も下手だと思う」と答えた。
それから、俺たちは唇を再び重ねて、舌を絡め合った。熱くて、柔らかくて、溶けてしまいそうなキスで、頭の中が白く痺れた。ぎゅっと手をつなぎあったまま、小さな水音を立てて口づけを交わす。
心臓がどくどくと脈打って、指先までほてるものが胸にこみあげてくる。俺は桃の腰に腕をまわして抱きしめると、優しく床に押し倒した。
「床、痛い?」
「一段目はおにいさんのベッドだよね」
「上行ってもいいよ」
「ちょっと怖い」
「俺も怖い。じゃあ──ごめん、背中痛かったら」
「たぶん平気」
俺は桃の胸元のリボンをほどいて、ブラウスのボタンを外していった。桃も俺のネクタイをほどき、シャツの前をはだけさせる。
「授くん、やっぱり筋肉すごいね」
「んー、そうか? 筋トレもやるしなあ」
桃はオレンジと黄色のギンガムチェックのブラジャーをつけていた。そのまま胸のふくらみに触れてみると、吸いつきそうに柔らかいのに、はじくような弾力もある。
俺はかあさんの記憶がはっきり残っていないし、この家は男ばっかりだし、異性の軆にまともに触れるのは初めてだった。
「外していい?」
「フック背中だよ。外せる?」
「いや、外し方分からんな」
桃はくすっと咲うと、「待ってね」と少し上体を起こして、ブラジャーを外した。ぷるん、と皿に出したゼリーみたいに白い乳房があらわになって、思わず股間に小さな電気が走るような感覚が芽生える。
そうっと乳房に手を添え、手のひらでその温もりを感じながら桃の鎖骨に唇を当てる。わずかに息をすくめる桃にどきどきしながら、ゆっくり乳首に近づく。とがった先端に舌が触れると、桃が小さな声をもらし、俺の背中に腕をまわした。
やばい。予想以上の速度で、脚のあいだが熱っぽく勃起する。
でも、俺だけが気持ちいいような行為にはしたくない。同時にいくとかそこまでは考えていなくても、せめて、桃が気持ちいいようにしてあげたい。そのためなら、ぶっちゃけ俺は事後に自分で抜けばいい。痛い想いはさせたくない。
桃の乳房を口で愛撫しながら、おそるおそる、手をスカートの中にもぐらせた。太腿を探りあててなぞり、脚のあいだに指先が届くと、そこは熱をはらんでいた。下着の上から触れてみると、かすかに湿り気がある部分がある。
俺のほうもけっこうやばい硬さだけど、桃も濡れていると思うと嬉しくなった。俺は口を離して深呼吸すると、上体を起こした。
「……授くん?」
「にいちゃんが、一応、ゴムくれたんだけど」
「えっ」
「いや、桃がまだそこまではって思うなら、いいんだけど。ただ、俺はやばいので、しないならトイレ行かないと」
桃は俺の瞳を見つめたのち、「私、初めてで」とたどたどしく言う。
「痛い、とか言うかもしれないけど、授くんが嫌だってわけではないから」
「うん」
「ゆっくり、してくれるなら」
「いいのか?」
「私も、えと……して、ほしい」
俺は笑顔になって、「優しくする」と桃の髪を撫でてまぶたにキスした。そして、隠しておいたコンドームを取り出す。桃も軆を起こすと、細い指でスラックス越しに俺に触れてきた。
「私、授くんに何かする?」
「ん、いや。今日はいいや」
「……でも、触りたいなー」
「嫌じゃない?」
「うん」
「じゃあ、ゴムつける前に触っていいよ」
桃は俺のファスナーを静かにおろし、ボクサーパンツの中身をそろそろと取り出して、「何か見るの恥ずかしい」と照れて咲いながらも、俺のものに手を添えた。
「ん……と、硬いね」
「マジでやばい。血管浮いてる」
俺がそう言うと、桃の指先が血管をなぞって、「いやいやいや」と俺は腰を引きそうになる。
「出るから」
言いながらも、先走った透明な液は、すでにあふれている。桃はそれを自分の手のひらに集めると、ゆっくり、俺をしごくでなくさすった。むずがゆい波がぐらりと押し寄せ、「ちょ、待って、」と俺は言うけど、桃は真剣に俺を刺激して、勃起が小さく痙攣しそうになる。
「桃、待って、俺も」
「うん?」
「俺も桃に触らせて」
俺がそう言うと、桃はこくんとして、やっと俺のものから手を離した。俺は桃のスカートをたくしあげると、触らせて、と言っても女のあそこなんか知らんぞと思ってしまう。
性教育では、どこを触れば気持ちいいかとかは教わらないし。でも、何かを刺激したら液が分泌されるどうのこうの言っていた気がする。とりあえず俺もそうしているから、下着ずらすか。
そう思ってブラジャーとお揃いのギンガムチェックのショーツをおろすと、そろそろと草むらに手を伸ばして割れ目に中指をさしこんだ。しかし、その指をどう動かすのか俺が止まってしまっていると、「授くん」と桃が俺の手に手を添える。
「授くんは、私のこと想ってしたことある?」
「ない──ことは、ないですが」
「そっか。じゃあ、私も同じだから……教えるね」
「え。お、教えるとは」
「たぶん、男の子って、初めてだと女の子がどうしたら気持ちいいかよく分からないよね」
「仰る通りで」
「そういうときは、女の子が自分の軆のこと教えるのがいいって書いてあったから」
「えー……エロ本に?」
「普通の雑誌に」
「普通の雑誌怖いな」
「私が授くんに触ってほしいところ、教えるから……手の力抜いて」
言われた通り、緊張していた手から力を抜くと、重なった桃の手が俺の指を導いて、まず入口らしき濡れたところから愛液を指先に絡ませた。
そして、そこからすくいあげた先に、小さな豆みたいな感触に出逢った。桃はそれを俺の指先でいじって、するとそれは徐々にふっくらとかたちを成してきた。円を描きながらそれを刺激して、桃は俺の肩を顔を伏せて息遣いをこらえる。
俺は桃の髪を撫でて、「我慢しなくていいよ」とささやいた。すると、桃と噛みしめていた唇をほどき、ぞくっとしそうなほど甘い声で俺の名前を喘いだ。自分がますます硬さと太さを増したのが分かった。
俺は桃のうなじに手を当て、首をかたむけさせるとこらえきれずにキスをした。さっきより貪欲に舌を交わし、そうしながら、次第に桃のわななきを覚えて、自分の力加減で桃の脚のあいだをいじりはじめる。
ふくらんだその核をいじっているうちに、桃の入口がびっしょり濡れた。俺のほうも先走ってべたべただったせいか、するっとコンドームを着た。そして、初めて軆を重ねるのにぎこちなさはほとんどなく、挿入することができた。
とはいえ、一気に突くのは桃が痛いようだったから、静かに奥に進んだ。というか、ゴム越しでも桃の体内は熱くて、うねりながら締めつけてくるから、すぐにでも達してしまいそうだ。
でも、俺が先にいくのは情けない。桃のことを気持ちよくしたい。全部おさまると、どこを突けばいいのかよく分からなかったぶん、動きが例の敏感な核に響くように腰を使った。
桃の体内から愛液が止まらないから、潤いも途切れなくて動きやすかった。俺たちは上半身をきつく抱きしめあうと、つながったところから粘液をしたたらせ、長いあいだ愛し合った。
耳元にこぼれる桃の声がかわいい。並の運動では息なんて切れない俺も、心臓が大きく脈打つので呼吸が荒っぽくなった。やがて、桃が不意に俺にしがみつくと、びくんと大きく軆を震わせて、中が俺を飲みこむように伸縮した。その締めつけにこらえきれず、俺もコンドームの中に吐き出した。
ゆるゆると俺も桃も脱力していき、床でしばらく動かなかった。
先に身を起こしたのは俺で、服半端に着たままだし、と気づきながら、優しく桃から自分を引き抜いた。コンドームを慣れない手つきで剥ぐと、我ながら濃ゆそうな白い精液が入っていた。
これこのままゴミ箱に入れられないぞ、と考え、とりあえず口は縛ると、ティッシュで厳重にくるんでからゴミ箱に沈めた。それから桃の隣に寝転がり、腕まくらをした。桃は寝返りを打って俺の胸に頬を当て、幸せそうに咲った。
「軆、つらくない?」と訊くと、「授くん、優しかったから」と桃は睫毛を伏せた。
それから、そんなに頻繁ではなかったけど、桃と軆を重ねた。そうして、ちょっとずつ女の子の軆のことも知っていった。桃も俺の軆で男のことを知っていった。ほとんど手探りで行為を重ねていたけど、それが幸福で楽しかった。
今年からにいちゃんが専門学校に通うためにひとり暮らしを始めて、部屋は実質俺のひとり部屋になった。だからって、特に回数が増える猿のようなことはなかったけど、とりあえずにいちゃんが留守のときとか、桃の家でこそこそ及ぶとか、そういう機会しかないわけではなくなったのはやっぱり嬉しかった。
桃とは軆の相性も良かったんだなあ、なんてしみじみそんなことに感動していると、電車が乗り換えの駅に着いて、俺は桃をかばいながらごった返す電車を降りた。
路線を変えて高校の最寄りに着くと、桃と手をつないで蝉時雨が降る葉桜の木漏れ日の下を歩いて、十分くらい歩く。
相変わらず日射しは厳しく、喉が渇く。金網越しにグラウンドが覗ける歩道に出ると、すでに運動部の連中が掛け声を上げながらアップを開始していた。
陸上部は俺が到着しないと始まらないので、「急ぎますか」と桃の手を引く。「うんっ」と桃は笑顔で俺の小走りについてきて、こんなふうにずっと桃を連れて大人になりたいなあなんて思った。
【第三章へ】