私が死んだら、仙はきっと生きていけないと思う。
彼は怖がりで、不安定で、人を信じられないから。そんな彼を受け入れるのは、きっと私だけだろうから。
彼のいびつな言動から、愛情を採取できるのはたぶん私だけだ。
乗るはずだった電車が、目の前でドアを閉めて発車してしまった。待ち合わせは十九時。現在、十八時四十五分。五分前には着いておかないといけないから、もう間に合わない。
私はスマホを取り出し、『五分くらい遅れそう。ごめんなさい』とメッセを送った。既読はすぐについたけど、返事はない。
スマホを忘れたまま出かけるのは不安だったから、取りに帰ったせいだ。それでも、置いて出かけたほうがよかったかな──
やっと来た次の電車に飛び乗って、私はじわじわと広がる内出血のような不安を覚えながら、目的地に到着するのを待つ。
待ち合わせの駅に着くと、駆け足でホームを抜けて改札に出る。いつも待ち合わせるのは七番出口、百貨店の前だ。
腕時計を見ると、時刻は十九時二分。待ち合わせの場所まで、人混みをよけながら走って二分。私は「ごめんなさい」「すみません」と言いながら人をよけて、待ち合わせの場所に急ぐ。
エスカレーターを駆けのぼって、七番出口から地上に出るときょろきょろする。すると、百貨店の入口のそばの柱にもたれて、煙草を吸っている仙がいる。
私ははずむ息を飲みこんでから、「仙っ」と彼を呼んでそこに駆け寄った。
「ごめんなさい、スマホ忘れて取りに戻ったら、いつもの電車行っちゃって、」
仙は私を見下ろしてから、いっぱいになった携帯の灰皿に煙草を押しこんだ。それをジーンズのポケットに入れると、私の手をつかんで歩き出す。私は前のめりになりながらそれについていく。
ああ、やっぱり私の話なんて聞いてくれない。そうだ。悪いのは私だ。スマホを家に忘れるなんて、不注意だった私が──
まっすぐ、仙の部屋に連れていかれる。あの映画観れるの、楽しみにしてたのにな。仙も観たいって言ってくれて嬉しかったのにな。そんなの、もう仙にはどうだっていいことなんだ。
部屋に入ると、鍵をかけてチェーンもかける。私を引きずって部屋に入って、明かりをつけてカーテンは閉める。足音を床にたたきつけて、私を明かりの下に連れてくると、こぶしを振りかざして頭にごつっと振りおろす。
私は唇を噛んで声をこらえる。それから、お腹に鈍い音を立てて一発。私はその場にくずおれ、脇腹や背中をめちゃくちゃに蹴られる。「何で」と仙が私の肩を踏みつけて言う。
「何で、約束を守ってくれないんだよ。俺のこと不安にさせないって言ったじゃないか。お前のこと待ってるあいだ、俺がどれだけっ──」
蹴られてぐらぐらする頭を抑えて、「ごめんなさい」と何とか言うけれど、届いていないのか、そんな言葉では足りないのか、仙は私に馬乗りになって殴る。
「やめて、お願い、私が悪かったから──」
いくら言っても、仙は私の頭を引っぱたいて、お腹にこぶしを突き刺す。顔はいつも殴らない。仙は気のすむまで私に暴力を振るい、ひとしきり殴ると、虚脱して私に覆いかぶさって動かなくなる。
静かになった部屋を、息遣いがぎこちなく這う。身動ぎすると、一月の冷たく硬い床が踏みつけられた背中に痛い。それでも、私は腕を持ち上げ、仙のワックスで仕上げられた髪を撫でる。
すると仙は震えて、私をぎゅっと抱きしめてくる。
「ごめん、琴里。俺が悪かった。ひどいことしてごめん」
さっきと声が違う。私は仙の背中に腕をまわして、「大丈夫」と言った。
「待ってるあいだ、つらかったんだ。すごく不安だったんだ」
「そうだよね。ごめんね」
「俺のそばにいてほしいだけなんだ」
「うん。そばにいるよ」
「俺から離れていかないでくれ」
「大丈夫だよ。仙が大好きだよ」
仙は私を抱きすくめて、嗚咽を漏らしはじめる。私は仙の頭から背中を愛撫して、彼が落ち着くまで腕の中でじっとしている。
仙とデートの約束をしても、何かのきっかけで七割くらいこんなことになって、ただ部屋で抱き合っている。
それでも、私は仙を離れられない。私が離れたら、仙は狂ってしまう。
仙は、私の中に壊せる心があることを確認しないと怖いのだ。それを破壊しても怒らない私で、やっと愛情を感じて安心する。そして、泣きながら粉々になった私の心を補修する。もうしない、もう二度とこんなことはしないと言いながら。
「でもさ、琴里。それってやっぱDVじゃないのか?」
私にはあんまり友達がいないけれど、二十四歳になる今、ゆいいつきちんと続いているのが、大学時代からの友人の真伊という男の子だ。
私たちが通っていた大学のそばには、CDショップがあったのだけど、私たちはよくそこの同ジャンルのCDをあさっていて、どちらからともなく話しかけて、聴いているバンドがほとんど同じで笑ってしまった。それ以来、いい友達だ。
真伊には高校時代からの彼女がいるし、私も二十歳のときから仙とつきあっている。だから面倒な恋愛関係にもならず、ただCDを貸し借りするついでにお茶をする。
仙とのことを打ち明けて相談しているのも、真伊だけだ。
成人式で、別に昔の縁があったわけではなく、ナンパ感覚で仙は私に声をかけてきた。半年くらいお友達で、夏につきあいはじめた。ちょっと嫉妬深いのかなあと思いはじめて、束縛気味かもしれないと感じて、「そんなに心配しなくても、浮気なんてしないのに」と言った冬の日、「言い訳するってことは、浮気してるんだろ」と仙のひとり暮らしのあの部屋で殴られた。
泣いちゃいけないのに泣いた。抵抗しちゃいけないのに抵抗した。逃げちゃいけないのに逃げた。
自分のひとり暮らしの部屋で怖くて震えていると、仙がチャイムを鳴らした。ドア越しに泣きながら謝られて、部屋に入れるしかなくて、それから、ずっと繰り返しだ。ただ私が、耐えていれば仙のスイッチが落ちるから、それまで避けたり責めたりせずに暴力を受けるようになった。
前々から私の相談を聞いていた真伊は、殴られたことを聞いた日から「早く別れたほうがよくない?」と言うようになった。逃げたほうがいい。それってDVだから。それがずっと続くんだぞ?
いくら真伊に言われても、私は緩く首を横に振る。
「でも、だって、私は仙が好きだから……」
真伊は黒目がちの瞳で私を見つめて、ため息をつく。私はあやふやに咲って、「愚痴っちゃってごめんね」と言う。すると真伊はかぶりを振り、「話して楽になるなら話せよ」と言ってくれる。
「俺くらいしか、話してる相手もいないんだろ」
「……うん」
「ほんとに、無理はするなよ。少しでもつらいって感じたら、彼氏からは離れろよ」
私はうつむいて、ぬるくなったミルクティーを飲む。
私は本当に仙が好きだ。ひどいことをされているのは分かっている。それでも仙が好きなのだ。
暴力が含まれても仙のそばにいたいというのは、間違っているの? だって、私がそばにいないと仙は壊れてしまいそうなんだよ。ひとりになんてできない。そばにいてくれって、すがりつくみたいに言うのに。
それでも、真伊と会っていることは、何となく仙には言わない。やましいことはないけれど、仙は私が異性としゃべっているだけで機嫌が悪くなる。
真伊に借りたCDは部屋に置いて、服も念のため着替えてから、その日も私は待ち合わせの五分前に七番出口に出る。あたりを見まわし、仙のすがたがまだないことにほっとする。ここで『着いたよ』なんてメッセージを送ったら急かされていると思われるから、黙って仙が現れるのを待つ。
「琴里!」
一月の風に身をすくめて、セミロングの髪を抑えていると、街の雑音の中から仙の声がした。顔を上げたのと同時に、仙が目の前に駆け寄ってきて笑顔を作る。
あ、今日は機嫌良さそう。そう思って、安堵して、私も笑顔になる。
「今日はどこか行くの?」
「映画観たあと、俺の部屋でゆっくりしよう。外うろついてても寒いし」
「ふふ、そうだね。私、何かごはん作る?」
「作ってくれんの?」
「仙、ハンバーグカレー好きだよね」
「好き! ハンバーグとカレーは最強だろ」
「あはは。じゃあ、映画のあとスーパーで食材買っていこう」
「おう。映画、何観る? こんなのあってるけど」
仙はスマホで近くの映画館の上映スケジュールを出して、私は一緒に覗きこむ。仙が好きなのでいいよ、と言ったら、何でそんなに適当なんだと言われる。
私は、仙が好みそうなアクションを選ぶ。「俺もそれ観たかった」と仙は嬉しそうに言って、私は恋愛モノが観たかったなあと思っても、絶対言わない。
仙は私と手をつないで歩き出し、私は今日は彼と並んで歩く。
機嫌がいいときの仙は、本当に普通の恋人だ。優しいし、無邪気だし、笑顔だってかわいい。映画を観て、スーパーで一緒に買い物をして、仙の部屋に向かう。
カレーを煮込んでいるあいだに手ごねのハンバーグを焼いて、ほかほかの匂いに炊き上がったごはんにカレーをかけて、ハンバーグをトッピングする。「どうぞ」と香辛料が香ばしいそれをミニテーブルに置くと、「うまそう」と仙は笑ってスプーンを手に取る。
私は自分のぶんも仙の正面に運んで、ミネラルウォーターをそそいだグラスもふたつ持ってくる。仙はどんなカフェの料理を食べるより、私の料理をおいしそうに食べてくれる。ふたりとも食べ終わり、私が食器を洗っていると、仙が後ろからぎゅっと抱きしめてくる。
頬に頬を当てられ、そっとキスされて、服の上から軆をまさぐられる。洗い物は途中だけど、私が水道を止めると、仙は私の軆を向き合わせて深く口づけてくる。
舌にカレーの香味が残っている。私は仙の腕の中で彼の服をつかみ、背伸びして小さく舌を絡める。しばらくそこで口づけあって、ふと唇をちぎった仙が、「したい」と言った。私はもちろんうなずいて、ベッドに移動する。
シングルベッドが、ふたりぶんの重みに軽くきしむ。上半身の服を脱がせあって、シーツに横たわってお互いを愛撫する。仙の軆は細身だけど引き締まっていて綺麗だ。
その軆にキスをしていると、「口でして」と言われて私はジーンズのファスナーをおろし、下着から仙のものを取り出すと口に含む。仙も私のスカートの中のタイツに手をさしこんで、ショーツの上から核に触れてこする。腰のあたりを彷徨う快感にたまに声をもらしながら、私は仙のものを深くまで飲みこむ。
口と手で刺激しあって、蕩けてくると、仙は私を押し倒してスカートをたくしあげ、ショーツとタイツを脱がせる。そして、ゆっくり入ってきて私を抱きしめる。溶けそうな軆の中をつらぬかれて、私は声をうわずらせて仙にしがみつく。「動くぞ」と言われてこくんとして、仙は私を腕に抱くまま奥まで突きはじめる。
私はそのリズムに合わせて喘ぎをもらし、核に響くまで揺すぶられる快感に身を任せる。自分の体内が仙を締めつけて、そのかたちを感じ取ることで分かる。熱くて、硬くて、私をつんざく仙のかたち。
好き、という言葉が無意識に口からこぼれる。好き。仙が好き。私を愛して、独占して、誰にも渡そうとしない仙が好き──
私が絶頂できつく締まり、自分も爆ぜる一瞬前に仙は引き抜いて、私の内腿に吐き出す。そして、ベッドに並んで横たわり、汗ばんだ髪を梳いたり、潤んだ瞳にまぶた越しにキスしたりする。
幸せ、と思った。仙といると、こんなにも幸せな瞬間がある。なのに、別れるなんてできない。仙から離れるなんて、私には考えられない。
仙と一緒にいるときは、スマホの電源は切るか、せめて設定をサイレントにしなくてはならない。それを忘れていて、スマホが鳴ったりすると仙の目が変わる。静電気が起きたような瞳になる。静かだけど、確かに電流が通った瞳。
その日、仕事帰りにそのまま仙と合流して、ファミレスで一緒に夕食を食べていた。スマホの設定がそのままだった。電話じゃなくてメッセ着信だったけど、確かに短い着信音が鳴ってしまった。
取り出して見るなんてしなかったけど、「今鳴ったぞ」と仙はぎろりと私のバッグを見る。「きっと大した用事じゃないから、」と言いかけたら、どんっと仙はテーブルを殴った。周りから視線が来ても、構わず仙は怒鳴る。
「また鳴ったらうるさいから電源切れ!」
私はびくんとしてしまったものの、「ごめんなさい」と言ってバッグからスマホを取り出し、誰の着信かも確かめずに電源を落とした。それから仙はずっといらいらしていて、煙草でも落ち着かない様子で、食事が終わると私を部屋に連れていった。
逆らっちゃダメ。
責めるのもダメ。
逃げるのも避けるのも泣くのもダメ。
ただ、耐える。
──私は大学を卒業してから、アパレルの仕事に就いて、店舗で社員をやっている。週五勤務で、基本的に開店前から出勤して閉店後まで店にいる。店長もバイトも女の子ばかりだから、仙も文句は言わない。
どのフロアのショップも、二十一時には閉店してシャッターを下ろす。精算をしたり、商品をたたみ直したりしたあと、関係者用のエレベーターまで行ける裏の通路に通じる小さな休憩室で、いつも三十分くらいみんなで他愛ないことをしゃべる。
「琴里ちゃんって、彼氏いたよね?」
ティーバッグで紅茶を淹れていると、同じく社員で上司である店長がそんな声をかけてくる。
「あ、はい。大学のときから」
「いいなあ!」とバイトの子が声を上げて、「あんた長続きしないもんねー」とほかの子が笑う。
「うるさいなあ。琴里さんの彼氏とか、超優しそうじゃん」
「琴里さんがおっとりしてるもんねー」
「誕生日とかちゃんと憶えててくれるんだろうなあ」
「まだ根に持ってんの、元カレが誕生日忘れてたこと」
「だって、それは重大じゃん! 誕生日だよ!? 琴里さんも誕生日忘れる彼氏とかありえなくないですか?」
私、は──ただ咲って、何も言えない。言わない。誕生日を忘れる彼氏より、自分のほうが不幸だとは思わない。だって、私は愛されている。すべて、愛されているからなのだ。
仕事が終わって自分の部屋に着くと、スマホに着信がないのを確認して、疲れていたからそのままシャワーを浴びることにした。忘れていた。お風呂に入る前は、仙にひと言、あるいはスタンプひとつでも、今からお風呂に入ることを伝えておかなくてはならないのに。
湯船でぼんやりしたあと、お風呂を上がってルームウェアになってから部屋に戻り、ベッドに投げたスマホがランプをちかちかさせていることに気づいた。
あ、と私はそれに駆け寄り、三十件以上の着信がすべて仙であることを知る。慌てて折り返しの電話を入れたけど、仙は出なくて、どうしようと焦る。今から、仙の部屋に行ったほうがいいかな。行ってどうするか分からないけれど。仙をひとりにしておくわけには──
そう思ったとき、突然チャイムが鳴った。びくっと玄関を振り返ると、どんどんっとドアをたたく音が続く。私は急いで玄関に走って、鍵を開けた。強引にドアが開いて仙が私を見下ろしてくる。
「何で電話に出ないんだよ」
「ご、ごめんなさい、お風呂入ってて」
「風呂の前はいつも連絡くれるじゃないか」
「今日ちょっと疲れてて忘れただけだよ。ごめ──」
「嘘ついてない?」
「ついてないよ」
「ほんとは中に男がいるんじゃないのか」
「いるわけないよ。ほんとにお風呂に、」
「うるさい、どけっ」
仙は私を床に突き飛ばし、土足で部屋に入ってくる。どすどすという無遠慮な足音が怖くて、動けない。仙は私の部屋を見てまわったけど、それでは気が済まなかったようで私の腕をつかんで部屋に引きずっていく。
やめて、という言葉を唇を噛んでこらえる。仙は私の側頭部を殴りつけ、その場に崩れさせるとスニーカーのままお腹を強く蹴って、咳きこむ私の胸倉をつかんだ。そうして何度も下腹部を殴って、私がぐったりすると床に転がして背中をかかとで踏みつける。
私は目をつぶって、声を抑えて、仙の瞳の感電が落ち着くのを待つ。仙はいらつくあまり床を踏み鳴らし、私の腰を蹴りつけてから、不意に玄関へと離れていった。私は呼吸を我慢して仙の背中を見る。
仙は玄関に腰を下ろして、急に肩を震わせると、嗚咽を漏らしはじめた。
「仙……」
私はあちこち痛む軆をこらえて立ち上がり、仙のそばまで行った。仙はいやいやするように首を振り、「知ってるんだ」と言った。
「え……」
「琴里に好きな男がいるって」
「な……何? そんなの、仙以外にいないよ」
「ときどき会って、CDとか交換してるじゃないか」
「………、真伊は、友達だよ」
「友達でも彼氏でも、好きなんだろ! 俺以外の男と仲良くしてほしくないのに!」
「真伊には彼女もいるし、」
「哀しいんだ。つらいよ。琴里がほかの男といるなんて、怖いんだ。不安なんだよ」
私は仙のかたわらにひざまずいた。仙の瞳はもう違って、湿ってぼろぼろと雫を落としている。それが傷口からの血に見えて、私が手を伸ばすと、仙は私の手を引いて抱きしめてきた。
「琴里を殴るのは、つらいんだ。こんなのやめたいんだ。だから俺を哀しませないでくれ。裏切らないでくれ」
「……うん。ごめんなさい」
「俺を嫌いにならないでくれ」
「嫌いになるわけないよ」
仙は私をぎゅうっと抱いて、息苦しいほどむせび泣いた。
「琴里を愛してるんだ」
「……うん。知ってる」
「俺のそばにいてくれ。ずっと俺のそばにいてくれ」
殺した声を押し出した仙の背中に、私も腕をまわして抱きついた。仙は私の軆を抱いて子供のように泣く。私の前では、仙は素直に泣いてくれる。
今借りている真伊のCDは、郵送で返そう。私が貸しているぶんは、返ってこなくていい。だからこのあと、私は仙が見ている前でもう真伊のことはブロックする。
何度も私を思いとどまらせようとした真伊。きっと仙とでは幸せになれないと。忠告はありがたかった。きっとそうしたほうがいいんだと思った。それでもやっぱり、私は真伊に従うことはできないみたいだ。
私は仙を選びたいんだ。私が死んだら仙は生きていけない。そして、私も仙がいないと生きていけない。
私がひとりにして、仙が死んでしまったら? そんなことを考えると、恐ろしくて感覚がまともではなくなる。
私は仙をひとりにしない。この人のそばから離れない。
それでこの愛おしく弱い人が生きていってくれるなら、私はいくら傷ついても、そんなことは構いやしないの。
FIN