romancier obscur

Koromo Tsukinoha Novels

君を想う

『12.25
 まーくんに振られた。クリスマスイヴの夜は一緒に過ごせないって言われたとき、嫌な予感はした。案の定、まーくんは聖夜をほかの女と過ごした。そして、やっぱり彼女が本命だと思う、私とは別れたいって。

 12.31
 大晦日かよ。クリスマスから日記書いてなかったな。書くようなこともなかったけど。

 1.1
 あけましておめでとう。って最初に言う相手が日記アプリって何なの。まーくんは彼女と初詣行くのかなあ。

 1.4
 いらいらしてネットで買い物しまくる。カードの上限ぎりぎりになったけど、何だっていいや。

 1.15
 買い物したのはいいんだけど、宅配便のおにいさんがいつも同じでめちゃめちゃ気まずい。こいつ毎日何を買ってんだって感じだろうな。そこまで気にされてないか。

 1.19
 今日、宅配便のおにいさんが「ありがとうございます」じゃなくて、「いつもありがとうございます」って言ったんだけど、「いつも」って……「いつも」利用してること、やっぱ気づかれてるのか。恥ずかしいな。

 1.21
 まーくんから連絡きた。部屋の荷物を引き取ってくれだって。そういやそういうの、全部置きっぱなしだった。きついなあ。

 1.22
 荷物取ってきた。彼女はいなかったけど、歯ブラシとかで泣きそうになった。荷物けっこう重くて、ふらふらしながら帰ってたら、アパートの前で宅配便のおにいさんに逢って、「持ちますよ」って部屋に運んでくれた。「重いのはいつも持ってるんで」って言ってた。

 1.26
 例のおにいさんが荷物持ってきてくれたので、こないだのお礼ですって言って、お茶のペットボトル渡した。

 1.30
 何かダメだな。宅配便のおにいさん気になってる自分がいる。まーくんに振られなかったら、絶対気にもかけなかった人なのに。

 2.5
 バレンタイン近いんだな。おにいさんに渡すのっておかしいかな。どうせ毎度の利用者にもらうんだろうし、気軽に渡していいか。

 2.9
 チョコ買ってしまった。

 2.14
 この日に限って到着する荷物がない。チョコどうしよう。今なら自分で食べて隠滅できる。

 2.15
 荷物。おにいさんが持ってきた。チョコ渡したらびっくりしてたけど、受け取ってくれた。入れておいた連絡先に反応あるかなあ。ないよな……

 2.20
 おにいさんからメッセきた。しゅーじくんっていうらしい。やばい。テンションやばい。いや、彼女とかいるかもしれないし、何も期待しちゃいけないのは分かってるけど。

 3.10
 日記書いてなかった。毎日だったメッセが、ちょっとずつ減ってきて。またここに愚痴。今のとこ、一日置き。このまま、三日置きになって、一週間置きになって、連絡しなくなるのかな。

 3.23
『ルート変更でいそがしくなる』ってきた。しゅーじくんが配達してくれなくなるのか。春だからただの異動? 私と顔を合わせたくないから、ルート変更を希望したとかじゃないよね? ……分かんない。

 4.4
 知らないおじさんが荷物持ってきた。

 4.16
 しゅーじくんから連絡ないなあ。こっちから一方的にいろいろ送って、こんなの重くて逆効果なのに。既読もつかない。既読ついて返事なかったらもっとつらいけど。

 5.11
 ここ数日、なぜかしゅーじくんからまともに返信がある。いきなり何なんだ。ヒマになったのかな。それとも、仕事うまくいってないのかな。

 5.24
 しゅーじくんの返信が止まった。

 5.28
 どうしたんだろ。死んだのかな。しゅーじくんが死んでも、私には何も連絡はないだろうから分かんない。そうだな、私はしゅーじくんのお葬式にさえ呼ばれないんだよな。

 6.6
 宅配便持ってくるのがしゅーじくんじゃないのは慣れてきたけど、メッセが来ないことには無感覚になれない。ほんとに死んだなんて思ってない。きっと私にメッセしたくないだけ。

 6.21
 もうしゅーじくんから連絡ないんだよね。そう思って、トークルームを思い切って削除した。もらった言葉、全部消えちゃったけど。私からのメッセが連投してるトークルーム、我ながらうざい。

 7.2
 あーあ、しゅーじくんのこと好きになってたな……。連絡来なくなってから気づくってバカだなあ。もっと大切にすればよかった。

 7.20
 しゅーじくんから連絡なくなってもうじき二ヶ月。好きだなんて、そんな気持ちは断ち切らないといけない。

 7.28
 いそがしいだけなのかもしれない。そう考えるときもある。でも、いそがしいなら「いそがしい」のひと言が欲しいんだ。そしたら、いくらでも待てるのに。

 8.6
 朝に目が覚めて、一番最初に考えるのはしゅーじくんのこと。

 8.9
 新しい好きな人ができたら楽なんだろうな。「彼氏できたよ!」とかしゅーじくんに連絡したらどう思われるかな。まあ、おおかた『よかったね笑』とかだよね、どうせ。

 8.17
 しゅーじくんの顔も声も思い出せなくなってきた。

 9.1
 昨日の夜、『夏が終わるね』なんてまたメッセ送ってしまった。バカか私は。でも、私ってしゅーじくんと幸せになれたのかなと思うときもある。だって、ゆっくり話したこともないし。まーくんに振られて、でも幸せになりたくて、執着してただけ?

 9.21
 しゅーじくんのことを考えなくなってきた。もうどうでもいいっていうか、このまま連絡しないこともできるんじゃない?

 9.25
 しゅーじくんみたいな人がいたっけなあという感覚。過去の人になりつつある。

 9.29
 しゅーじくんはほんとにいそがしいのかもしれないけど、そんなもん言われないと分かんないし、「言われないと分からないよ」としゅーじくんに言うこともできないなら、もしかして仲良くなってもたいして楽しくなかったんじゃない?「今いそがしいんだ」って言わないということは、私に心配されなくていい、ほっといてほしいってことだよね。私はいい人じゃないの、愚痴のひとつも言ってくれない人に、無償の気遣いなんてできないよ!

 10.3
 しゅーじくんからメッセ来る夢。夢の中で、私は返信してしまっていた。そういえば、しゅーじくんの誕生日は十二月って言ってた。『おめでとう』はどうしようかな。

 10.9
 ちらほらしゅーじくんのことを考える。でも連絡しない。返事がないのは分かってる。自分でも知ってるんだ、しゅーじくんのことを考えるのは寂しいから。まーくんに振られて茫然としてたから、しゅーじくんに連絡先を渡した。もし、まーくんと今もつきあってたら……

 10.15
 スマホ静かすぎる。今頃どうしてるのかな。つらいことがあったら、ちゃんと友達に話してるといいな。

 10.20
 やばい、もし連絡したらどうなるかなって考える。ずいぶん間を置いたから応えてくれるかもなんて。返事なんてないよ。つながっていたかった。しゅーじくんには、私のその想いが重荷だったんだろうから。

 10.21
 連絡したい。言いたいことがいっぱいある。でも、それは全部くだらない。私のこと憶えてる? 彼女できた? 生きてるよね? 並べてみるとほんとうざったい。寂しくて感情がぶれてる。しゅーじくんの中では、私は終わってるんだよ。過去なんだよ。

 11.1
 昨夜、眠れないままメッセを送ってしまった。バカだ。もうやめよう。誕生日も『おめでとう』なんて送らない。バカな女だなって嗤われるだけだもん。好きになってごめんなさい。

 11.4
 そんなに好きだったのかな。寂しかっただけじゃん。依存相手が欲しかっただけ。

 11.30
 だいぶ日記さぼった。しゅーじくんを思い出さない日はない。でも薄れつつある。二度と会えなくて平気だし、連絡も来なくていいや。ただ、自分の中でケリをつけるために、誕生日に『おめでとう』は送ろうか迷ってる。もうしゅーじくんと話したいこともないのにね。何のために連絡取ろうとしてるの?

 12.2
 決めた。誕生日に『おめでとう』って送る。そして、それを最後にする。しゅーじくんから返事があってもなくても。どこかで見切らなきゃいけないんだ。だから、最後にお祝いだけ言って終わる。さよなら、なんてわざわざはっきり伝えない。でも、さよならは言わせてほしいんだ。さよならの代わりに、おめでとって言ったら、私は未来に目を向ける。

 12.16
 しゅーじくんの誕生日。『誕生日おめでと』って七文字だけ送ったら、夜に『ありがと笑』って返事が来た。泣きそうになった。会話続けたい。続けたいけど、最後って決めたから。ここで断ち切らなきゃいけない。

 12.17
「好き」って気持ちは切り捨てよう。また育てたって、殺さなきゃいけなくなって、傷つくだけなのはよく分かった。返事をもらえただけでもよかった。幸せになれた。

 12.20
 もうすぐクリスマスか。まーくんと別れて一年なんだね。まーくんのことはもうどうでもいいな。さすがに。しゅーじくんのことも、きっといずれそういうふうに思える。

 12.24
 今年のクリスマスはひとり。でも、気分はだいぶすがすがしい。来年はいい恋愛ができるといいなー。』

 FIN

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